最寄り駅から20分ほど歩いた場所に、陽太くんが住んでいたとされる二階建てのアパートがあった。
壁は蔦で覆われて雨水と土埃で汚れ、外階段は手すりが酸化して赤茶色く変色していた。外に出された洗濯機はちゃんと動くのかも危うそうで、窓の鉄柵に新しい傘が引っ掛けられていなければ廃墟と見間違いそうなほど古びたアパートだ。
「ここの103だっけ?」
「うん。ただ今も陽太くんのご家族が住んでいらっしゃるかは──」
と、そこまで聖仁さんが言いかけて、103と書かれたプレートの下に「辰巳」の文字を見つける。
「住んでいらっしゃるみたいだね」
「えっ! なら話聞くチャンスじゃね!?」
「今日はダメだって、アポ取ってないし。そもそも被害者家族に当時の話を聞くなんてかなり気を使うんだから、ちゃんと準備をしてから……」
ザッ、と地面を踏みしめる音がして皆が一斉に振り返る。
黒いダウンジャケットにピンク色のスウェット姿の女性が、両手に買い物袋を下げて立っていた。歳は50代くらいだろうか。毛先を巻いた明るい茶髪がより一層彼女を若く見せる。
怪訝な顔で私たちを見回したあと、「何あんたら。ウチになんか用?」と警戒心をむき出しにした声で尋ねた。
もしかしてこの人。
「もしかして、辰巳恭子さんですか?」
「そうだけど」
控えめに尋ねた聖仁さんに、彼女は少し不機嫌な顔をする。
ビンゴだ。彼女は陽太くんのお母さん、辰巳恭子さんだ。



