「当時の陽太くんの足取りって、ちゃんと調べられてないんですね」


手にしていた資料から顔を上げて隣の聖仁さんに話しかける。

ぶつかりそうになった電柱を「おっと」と避けけば、後方からバカとお叱り罵倒を頂戴する。

怒涛の節分祭が終わった翌日から、私たちは通常通りの奉仕に戻った。


「空亡発生時の火事で、うやむやになっちゃったんだね。この時期の行方不明事件にしてはよく調べられている方だと思うよ」


そういうものなのだろうか?

資料に書かれた陽太くんの足取りは、朝家を出て校外学習に参加し、山の中で行方不明になったという簡素なものだった。

だから私たちは具体的な陽太くんの足取りを再度調査すべく、彼が住んでいた街へやってきた。


「にしても陰気臭い場所だなぁ」

「ああ。真昼間なのに残穢やら妖やらが影を彷徨いてやがる」


苔の生えた崩れかけの塀の影から、小さな小鬼がこちらの様子を伺っているのが見える。

雨と砂埃で黒く汚れた軒天には、怪鳥の巣が張ってあり、三つ目の雛鳥たちがじっとこちらの様子を伺っている。


「残穢が吹き溜まりやすい地形のようです。とりわけこの地域は盆地なので集まりやすいんでしょう」


恵衣くんが厳しい目をして曇り空を見上げた。

空気と同じで残穢も上から下へと流れていく傾向がある。この街のように山に挟まれて周辺よりも低い土地はとりわけ集まる。