空いた湯のみを洗っていると、玄関の鍵が回る音がした。直ぐに軋む廊下を進む音がして、台所の引き戸がガタガタと開く。


「おう、帰ったか」


買い物袋をテーブルに置いた男は、寒そうに身を縮めてマフラーを解く。


「遅くなってすみませんお義父さん(・・・・・)。ラップがどこも売り切れてて」

「なんでもいいつったろ」

「でも使い慣れてるヤツがいいかなって」


男はコートを椅子に引っ掛けると買い物袋の中身をテーブルの上に並べる。ふと、清志が普段はしまい込んでいる湯呑みを洗っているのに気付き不思議そうな顔をした。


「誰か来てたんですか?」

「ああ、知り合いだ」


納得した顔をした男は作業に戻る。水切りかごに湯呑みを並べ、その作業を手伝った。


「おい、こっちはもういいから自分のこと進めろ。もうすぐ発つんだろ」

「大丈夫ですよ。そっちの準備はもうほぼ済んでるんで最後まで手伝います、親方」

「もう親方じゃねぇだろ」


清志のぶっきらぼうな言い方に男はくつくつと肩を揺らす。

ふたりは肩を並べた。


「なぁ」


清志の呼び掛け男は首を傾げる。


「……薫が今どうしてるか、知ってるか」