「今朝薫先生からレポートの締切が明日までだって連絡あったろ。今回は終わってんだろうな」
「今回はちゃんとやったよ……! 薫先生に提出したら、1番早いって褒めてくれたし」
1年生の時に提出をすっかり忘れていて恵衣くんに手伝ってもらったのは記憶に新しい。なので今回は提出期間が始まって真っ先に送った。
居間を仕切る暖簾がすっと上がってドライヤーを手にした清志さんが戻ってきた。私たちが振り向くと、少し驚いた顔をしてその場に立ちつくしている。
「お前ら今……クユルって言ったか?」
信じられないものでも見たかのような表情だ。
何か変なことでも喋っていただろうか?
「クユルって、薫ると書いて薫か? もしかして、神々廻薫のことか?」
清志さんから薫先生の名前が出てきたことに少し驚く。
「薫先生のことご存知なんですか?」
「あ、ああ。先生ってことは、薫は今教師なのか?」
「えっと……はい。私たちの高校の先生です」
一層目を丸くした清志さん。驚きと困惑の表情のあと、一瞬泣きそうな顔をした。
そうか、と呟いた声はどこか懐かしさを含んでいてうんと優しかった。



