何か言えない事情でもあるんだろうか。

重い沈黙に耐えかねて、不躾にならない程度に部屋を見渡す。

玉じいの家の雰囲気とどことなく似ている。部屋に統一感はなく色んなものが溢れているけれど掃除はよく行き届いていて温かみがある。

タンスの上には女の子の写真が飾ってあった。小中高と入学式の写真があって、その隣には恐らく結婚式の写真だろうか。白無垢を着た女性と紋付袴の男性の隣で、清志さんが微笑んでいる。

恐らく結婚してこの家を出ていった娘さんの写真だろう。


「今日は──」


口を開いた清志さんに視線を戻す。


「今日は娘の……(さち)の月命日なんだ」


恵衣くんと視線が絡む。互いにかける言葉に迷い、結果押し黙ることしか出来なかった。

清志さんは写真に写る娘さんを見上げ、何かをこらえるように膝の上できつく拳を握る。

家族を失う辛さを、私はよく知っている。


「わくたかむの社のモン達が、月命日に合わせて毎月来るんだ。お前らみたいに風呂敷抱えて、線香あげさせてくれってな。どの面下げてウチまで来てんだ」


清志さんの娘、幸さんはどうやらわくたかむの社の関係者らしい。それも過去に社と何か揉め事があったようだ。


「幸も、幸の子供たちもアイツも……あの社のせいで」


震える拳を勢いよくちゃぶ台に叩き付けた。がちゃん、と湯のみが音を立てる。