脱衣所を出て居間へ続く暖簾をくぐると、既に着替え終わってちゃぶ台の前に座った恵衣くんが出されたお茶を飲んでいた。
おじいさんは少し居心地が悪そうにその前に座っている。
「清志さん、着替えありがとうございました」
濡れた白衣と袴を胸の前に抱えて頭を下げると、清志さんはこれまたバツが悪そうに首の後ろをかいて「ああ」と頷く。
「大きさは平気か。娘が昔着てたやつなんだが」
「はい。丁度いいです。むしろ娘さんの物を勝手にお借りしちゃってすみません」
黙った清志さんはただひとつ頷くとちゃぶ台に視線を落とした。
男性は吉岡清志さんと言うらしい。和菓子屋「菓瑞」の職人で、店舗の二階は彼の自宅になっているらしい。
簡単に話を聞くと、どうやら私たちと誰かを勘違いしたようで勢い余って水をかけてしまったらしい。
ちゃぶ台の前の座布団に促され腰を下ろす。
清志さんはひとつ咳払いをしたあと深々と頭を下げた。
「さっきは本当にすまなかった。わくたかむの社のモンだと聞いて、ついカッとなっちまって。先月にもう二度と来るなと追い返したばかりだったもんで……」
入ってきた時も思ったけれど「もう二度とくるな」や「二度とうちの敷居を跨ぐな」と言われるなんて、一体何をしたんだろう。
「社の者が何か失礼をしたんでしょうか」
恵衣くんが静かに尋ねる。
清志さんは唇をすぼめ俯いた。



