「……今、わくたかむの社と言ったか?」


一段と低くなった声がそう聞き返してきた。


「ええ。権宮司の扇屋から──」


恵衣くんが言い切るよりも前に、暖簾がすっと押し上げられた。

次の瞬間、作務衣の形をした真っ白な白衣に紺色の前掛け、同じく紺色の和帽子を被った強面のおじいさんがのれんから飛び出してくる。

目が合ったかと思うと、男性は勢いよく右手に持っていた何かをこちらに突き出した。それが何かを理解するよりも先に頭からバシャッと冷たい何かがかかる。

数秒してコップに入った水をかけられたのだと気付いた。

驚きと困惑で絶句していると、男性は顔を真っ赤にして叫ぶ。


「二度とうちの敷居を跨ぐんじゃねぇつっただろ!? どの面下げて来てんだこの──」


そこまで言って私たちをちゃんと確認したらしい。

頭からつま先まで私たちのことをじろりと睨みつけると、少し困惑した顔を浮べる。


「……お前達、本当にわくたかむの社のモンか?」


暫くの沈黙の後、無表情で顔を滴る水滴を拭った恵衣くんが顔を上げる。


「……わくたかむの社で実習中の高校生です」


肺の空気をすべて出す勢いで深く息を吐いた恵衣くん。邪魔くさそうに長い前髪をかきあげる。キレ長い瞳はいつも通り冷静で、でも今にも爆発しそうな怒りは隠しきれていない。

おじいさんはその言葉を聞くなり今度は顔を青くする。勢いよく暖簾の奥へ引っ込んだかと思うとタオルを二枚持って飛び出してきた。