「ここ……だよね?」


三時間後、教えてもらった住所に到着した私たちは並んで建物を見上げた。

古い二階建ての木造建築で、すりガラスの引き戸には「営業中」の看板がかけてある。店前の立て看板には達筆な文字で「和菓子屋 菓瑞」とあった。

おそらく、めでたい印という意味がある嘉瑞(かずい)という言葉を文字ったのだろう。なかなかセンスのある店名だ。

店の奥から煮詰められた餡子の甘い香りがふわりと香り思わず頬が緩む。


「いくぞ」


恵衣くんがガラリと引き戸を引いた。

店内はよくある街の和菓子屋で、ショーケースには練り切りやどら焼き、大福が行儀よく並ぶ。値札のそばには「大人気!」や「イチオシ!」と書かれた可愛らしいポップが添えられている。

レジやショーケースの向こうに店員の姿はない。のれんで仕切られた向こう側に誰かが作業する音が聞こえる。

一人で切り盛りしているのだろうか?


「すみません」


恵衣くんが暖簾の向こうに声をかける。


「おう、ちょっと待ってくれ。すぐ行く」


落ち着いた声の返事があった。声の高さからして年配の男性だ。


「急ぎではありません。私たち、わくたかむの社のものです。権宮司の扇屋につかいを頼まれまして」


その瞬間、ガシャンッ!と調理器具が床に落ちるような激しい音がした。

驚いて恵衣くんと顔を見合わせる。