あまりにも強力な力は象徴にもなるけれど、反対に恐れられる存在にもなりうる。
瓏くんの場合は妖力だったけれど、薫先生はどうだろう。
莫大な呪を保有して生まれてきた薫先生。何か言葉を発すれば、それが呪いに転じる可能性が常についてまわる存在。
本邸から遠く離れた狭い質素な離れ。双子なのに子供部屋には兄の芽の物はひとつもない。つまりあの子供部屋を使っていたのは薫先生だけで、双子は離されて暮らしていた。
周囲の人たちがどんな目で薫先生を見ていたのか、少し考えればすぐに分かった。
薫先生は家族から引き離されて、この場所で育ったんだろうか。
思わず黙り込む。
「あの人がああいう笑い方をする理由が、何となくわかった気がする」
恵衣くんは前を向いたまま小さくつぶやく。
薫先生はいつでもどこでも声を上げて笑う。よく笑う人なのかと思っていたけれど、そうせざるを得ないきっかけがあったのだとしたら。
薫先生はどういう思いでこの場所で幼少期を過ごしたのだろうか。
「禰宜頭!」
気付けば社頭に戻ってきていた。
野外舞台の設営の指揮を執っていた禰宜頭に恵衣くんが声をかけて、外出する旨を伝える。交通費とクリーニング代を受け取り、再び歩き出した。
「お前ら今から出かけるんだよな、ちょうどいいこれ届けてくれ! 届け先は後でメッセージ送るから!」



