瑞祥さんといい亀世さんといい、三年生の女子ってなかなかお転婆な人が多いな。
「チッ……慶賀がいればもっと採取できたんだが」
無意識に呟いたのであろうその言葉。もちろん皆にも届いていて、皆は咄嗟に聞こえていないフリをした。
「とにかく一人で急にどこかへ行かないで。小さい山とはいえ、放置されてからかなり時間が経つんだから」
「熊でも出ると思ってるのか? 東北ならまだしも、中部地方だぞここ」
はん、と鼻で笑った亀世さんは袴の土を手のひらで叩き落とす。
「熊がでたとしたらとっ捕まえて今日の晩飯にでも──」
しようか、という亀世さんの声は茂みが左右に大きく揺れる音でかき消された。
時間が止まったかのようにみんながピタリと動きを止める。ガサガサ、ガサガサ、と遠くの茂みが激しく揺れ始める。
「……亀世、ゆっくりこっちに。音立てないで」
無声音で話しかけた聖仁さんの表情は固い。亀世さんは無表情でゆっくり顎を引くとそろりそろりと私たちの元へ歩み寄る。
亀世さんに手を差し出す。白く細長い冷たい指が私の手をぎゅっと握り隣に並んだ。誰かの生唾を飲み込む音が聞こえる。
「聖仁さん……ちなみに中部地方はツキノワグマがでるぜ……」
「教えてくれてありがとう泰紀。でも今それ言われても皆のこと怯えさせるだけだと思う」
その通りです聖仁さん。あの亀世さんですら私の手を握りつぶさん勢いでガッチガチに握ってきてます。



