不機嫌になるといつもそうだ。

その時、前を歩いていた聖仁さんが「んふっ」と堪えるように笑ったのが聞こえた。くつくつと肩を震わせながら振り返って、私たちの顔を交互に見る。


「……なんですか」

「ごめんごめん恵衣、なんでもないよ。ただ後輩が可愛くて」

「なんすかそれ」


未だに震える聖仁さんは一息つくと、気を取り直した様子で「それよりほら」と前を指さす。私の肩の高さくらいまである急な傾斜があった。


「巫寿ちゃんこれ登るのきついだろうから、恵衣が手貸してあげて」

「わかりました」


なんで俺が、という返事を予想していたけれど、聖仁さんから頼まれたことだからかあっさり引き受けた恵衣くんは、出っ張った石に足をひっかけ三歩で上まで登りきる。

上で振り返って膝を着くと「ん」と右手を差し出した。

私ばっかり気にしてるようで、なんだかちょっと悔しい。

ちょっと意地悪して差し出された手を思いっきり引っ張てみたけれど、ビクともせずひょいと私を引っ張りあげる。


するりと傾斜の上に降り立った。


「あ……ありがとう」

「ん」


何事も無かったかのように歩き出した背中を慌てて追いかけた。