歩き出した聖仁さんの背中を追いかけ、なんとなく恵衣くんの隣に並ぶ。
「……凄いな、あの人は」
珍しく自分から話しかけてきた恵衣くん。その視線は前を歩く聖仁さんに向けられている。
改めて聖仁さんの優秀さを実感し思わずそう漏らしただろう。
「本当に凄いよね。実習が始まってから頼りっきりだよ」
何気なくそう呟けば、まるで変なものを見たような顔で振り向く。
「自覚があるなら自立する努力をしろよ」
「あ……えっと、そうだよね。うん」
思わぬ返答に面食らう。分かる分かる俺も、なんてフレンドリーな返事は期待していなかったけれど、まさかこんなに真正面からぶった斬りされるとは思っていなかった。
そうだよね、恵衣くんに雑談力を求めるのは間違いだった。
バレないように小さく息を吐く。
「……まぁ、気持ちは分からんでもない」
そんなつぶやきが聞こえて、おや?と顔を見た。
「聖仁さんは、怜衣兄さんに似てる」
聖仁さんの背中に向けられたその眼差しは、いつもよりほんの少しだけ親しみがこもっている。
怜衣さん、恵衣くんのお兄さんだ。歳が十六個離れていて、とても優秀な人だったと以前教えてくれた。



