ピンと来ていないのは私と泰紀くんだけだった。
「空亡が初めて出現した山、ですね」
冷静に答えた恵衣くんに、二人してあっと声を上げる。
空亡戦が始まる前、まだ神職が空亡が出現したと気付いていなかった時、中部地方のある山で大規模火災が発生した。
一向に収まらない山火事の噂を聞きつけた地元の神職が現場に駆けつけたところ、妖の怪火によって引き起こされた火災であることが判明し、近隣の神職や本庁職員数十名で鎮火にあたり、約三月かけて鎮火したのだとか。
後からその山火事が空亡の仕業ということは、次にふくらの社に出現したことで発覚したらしい。
「そういうこと。陽太くんの姿が最後に確認されたのがこの山で、しかも日付を見てびっくり、山火事があった日も最後に陽太くんが目撃された日と合致する」
「つまり陽太って奴を連れ去ったのは空亡ってことか!?」
興奮気味に乗り出した泰紀くんの額を聖仁さんがピンと弾いた。いて、と肩をすくめる。
「ちゃんとシートベルトしめなさい。──空亡と陽太くんの関連についてはまだ確実なことはいえないけど、空亡出現時の火災でろくに調査されてないのは事実だ。というわけで、この事件の再調査をしてもいいんじゃないかなって思ったんだ」
なるほど、そういう理由で聖仁さんはこの事件を選んだわけか。
相変わらずたった一歳しか変わらないのが信じられないくらいの大人びた広い視野だ。



