「その話は置いといて、これから行く現場の話をしよう」
おほんと咳払いをした聖仁さん。
先程コピーしたばかりの資料をカバンの中から取り出す。
聖仁さんが候補に出したのは今から19年前に起きたひとつの行方不明事件だ。
行方不明となったのは当時中学三年生だった少年、辰巳陽太くん。行方不明になる直前は中学の学校行事で登山に来ており、登山中に行方不明になっている。
かなり古い事件だし、他の事件と比べて何かおかしな部分がある訳でもない。強いて言うなら途中で捜査が打ち切りになっていることくらいだけれど、空亡戦の前後は捜査がストップしている事件が数多く存在しているのでこれもそのうちの一つだろう。
「おい聖仁、どうしてこの事件なんだ? お前はこれの何が引っかかる?」
資料をパラパラとめくりながら亀世さんが顎をさする。
「うん。この被害者である辰巳陽太くんが消えた山の名前、どこかで見たとこあるなって思ってたんだよ。それでちょっと調べたらその山、大規模な山火事が発生したことがあるらしい」
「山火事、ですか?」
ひとつ頷いた聖仁さんは「それを踏まえて、これみて」と後ろの席の私にタブレットを回す。
なにかの報告書がPDF化されたものだ。表題を理解するよりも先に「空亡」の文字を目が拾う。
私と同じだったように「空亡」をひろった亀世さんは、すぐにそれと山火事が結びついらしく「なるほどな」と呟いた。



