窓の外を眺めていた亀世さんが「そういえば」と口を開く。
「そういえば、前に知り合いの神職から聞いた話なんだが……誰もが"次期宮司になるだろうと"考えていた男がいたんだと」
正しく聖仁さんと同じような状況に皆が興味深げに耳を傾ける。
「なのに十年後経っても二十年経っても選ばれず、皆が不思議に思っていた頃にその男が痴漢で捕まったらしい」
えっ、と皆の驚いた声が揃う。
痴漢で捕まる? 神職さまがそんな事したの?
「てことは、御祭神さまはその男が犯罪で捕まるって見抜いてたってことか?」
「どうだかな。ただその翌日に別の奴が宮司に選ばれたらしい。その罪さえなければ、その男が選ばれていたかもしれないし、そうでなかったかもしれない」
へぇ〜、と皆が声を上げる中で、聖仁さんだけが苦い顔で笑う。
「つまり亀世は俺が犯罪を犯す可能性があると言いたいの?」
「そんなことは言ってないだろ。まぁでも、優しい奴ほどカッとなった時怖いって言うよな」
ひひひ、と悪い顔で笑った亀世さん。
勘弁してよ、と聖仁さんが深いため息を着いて窓の外に視線を向けた。
聖仁さんが罪を犯す未来が来るなんて想像できない。誰よりも誠実で真面目で勤勉な人だ。
けれど、もし万が一そんな時が来たとしても、きっと大丈夫だろう。だって瑞祥さんという存在が正しい方向に導いてくれるはずだから。



