言祝ぎの子 漆 ー国立神役修詞高等学校ー


足音に気付いたのかパッと振り返る。目が合ったので小さく頭を下げると、聖仁さんは私に向かって軽く手招きをする。


「ごめんちょっと待ってて──どうかした?」

「すみません電話中に。泰紀くんが聖仁さんのこと探してて。レポートが再提出になったから助けてほしいって」

「あはは、やっぱりアレ再提出になったんだ。だから言ったのに。分かった、すぐ戻るよ。──もしもし瑞祥? うんそう巫寿ちゃん」


やっぱり電話の相手は瑞祥さんだったか。

恋人同士の会話を盗み聞きしては悪いと思いつつ、関係性が変わってからどんなことを話すようになったのか気になってしまいついつい聞き耳を立てる。


「うん分かった、また明日の夜ね。何? 最後に一個だけ聞いて欲しい? 朝飯に出た豆ご飯食ってる時に笑ったら鼻から豆がでてきた? はしたないからやめなさい」


思わずずっこける。

でもなんというか、相変わらずで少し安心した自分がいる。

深いため息をついて天を煽った聖仁さん。お転婆な彼女を持つ気苦労は計り知れない。


「もう切るよ、また明日ね。──うん、ありがとう。瑞祥もどうか無理はしないで。危ない目に逢いませんように。怪我しませんように」


最後の言葉には明らかに優しさで満ちた言祝ぎが宿っていた。

これまでずっと、瑞祥さんのことを詞で縛りたくないと言っていた聖仁さん。でも気持ちが通じあえたことで、惜しみなく大切な彼女をその詞で守れるようになった。

相手を思う気持ちに溢れた言霊に胸が熱くなる。

強く思い合う二人の関係性がすごく羨ましい。