言祝ぎの子 漆 ー国立神役修詞高等学校ー


「薫先生が次期宮司?」

「ああ。九歳の時つってたかな。そん時に宮司に選ばれてえらく他の神職の反対にあったんだと。薫先生は呪しか持ってなかったからな」


薫先生が宮司に選ばれていたということがまず十分衝撃的なのだけれど、それ以上に当時の薫先生が置かれていた状況を思うと胸が痛んだ。

それを考えれば、今どうして宮司ではなく神修で先生をしていのか何となく察しがつく。


「そん時に薫を支持したのが現宮司の神々廻隆永、薫を引きずり下ろして芽を宮司にしようもしたのが先代の宮司だ。神職たちはそれぞれを支持して、以降"神託派"と"権宮司派"に分かれる構図ができたんだと」


権宮司は宮司とほぼ同等の地位にあり、宮司が長らく神託で選ばれない場合は神職たちの推薦で権宮司が選ばれ、権宮司が宮司代理として奉職する。

つまり薫先生を引きずり下ろしたあと神々廻芽を権宮司に推薦しようとした、と言ったところか。

そこで気付く。私が感じていた違和感や嫌悪は、この社に吹き溜まる人間の浅ましさを煮詰めた悪意の煮こごりだったわけだ。


今となっては薫先生はあちこちの任務に呼ばれる優秀な神職だし、神々廻芽は本庁を裏切った謀反者だ。

人をその人が持つ性質だけで決めつけるのは愚かの極み、ましてや九つの子供にそれを押し付けるなんて、到底長い歴史を誇る社の神職がすることとは思えない。