「おーい、学生さんたち」
遠くからそんな声がして金縛りが解けたかのように皆がパッと振り返った。
紫袴の神職さまが軽くてを上げながら走ってくる。私たちの前にたどり着くと、膝に手をついて肩で息をする。
よっぽど急いで来たらしい。
「待たせてすまないね」
額の汗を拭いながら神職さまが顔を上げる。
額はすっきりと広く皺はごく控えめに刻まれている。こめかみにやや白髪が混じっており、恐らくは禄輪さんよりも年上の方なのだろう。
頬はやや丸みを残しており、タレ目気味の瞳は人懐こさと包容力の両方を感じさせた。
苦しそうな息遣いはやがてゴッホゴッホと辛そうな咳に変わる。
「だ、大丈夫ですか権宮司?」
私たちをここまで案内してくれた若い神職さまが慌てて背をさする。もう歳なんですから、とからかい交じりではなく本気で心配する声色で窘める。
「すまない、大丈夫だ。君はもう奉仕に戻りなさい。後は私が」
不安げな表情を浮かべた神職さまだったが、しぶしぶ一つ頭を下げて引き下がる。去っていった彼の背中を確認した神職さまは私たちに向き直った。



