わくたかむの社、別称稚高産神社は龍神を御祭神として祀る東日本では一番大きな社だ。
創建は奈良時代まで遡り、最古の社とされる"かむくらの社"に次いで古い社でもある。
宮司はここ二百年ほどは薫先生の家系である神々廻家から外れたことはなく、現在の宮司は確か薫先生のお父さんである神々廻隆永宮司だったはずだ。
「薫先生ってただの放蕩息子だと思ってたんだけど、なんかわけアリっぽくね?」
どうしても駅弁が食いたい、と駄々をこね東京駅でお弁当を仕入れた泰紀くんは、ホームのベンチで白米を口いっぱいに頬張りながらそう言った。
実は私は、薫先生が実家を避けていることを知っている。
あれは一年の大晦日の日だった。みんなでグループ通話をしながら年越しカウントダウンをした時に、慶賀くんと来光くんと私、そして薫先生の四人だけで先に話す時間があった。
その時に慶賀くんが「神々廻家のお坊ちゃんが、こんな忙しい時期にのんびりしてていいのかよ」というようなことを言って、薫先生は「実家とは絶縁中」なのだと答えていた。
その時は芽さんのことをまだよく知らなかったし、薫先生も冗談まじにり「社の稽古場を吹き飛ばしたから」と言っていたので、社の建物を破壊したことにより家から追い出されたのだと思っていた。
けれどどうやら、それだけじゃないらしい。



