それと同時に肌を逆撫でされるような嫌な感覚が全身に走り息を飲む。私はこの感じをとても知っている。
悲鳴が聞こえた方角に視線を向ける。声はここからそう遠くなかった。拳を握りしめ勢いよく駆け出した。
聞こえたのは私が通っていた中学校がある方角だった。通い慣れた通学路は頼りない街頭のあかりだけでも迷わず進むことができる。
いくつかの角を曲がれば懐かしいオンボロ校舎が見えた。
来る途中に人は見かけていない。けれど探すまでもなく、角から風に乗って流れてくる暗紫色の靄が私に教えた。
「誰か、助けて……ッ!」
女性の悲鳴、助けを求める声が角の奥から聞こえる。
迷うことなく走り出し、勢いよく角を曲がる。ぶわりと頬を撫でた残穢にすぐさま息を止めたけれど間に合わず、身体の内側から蝕まれるような不快感が駆け巡る。
顔を顰めて腕で口元を塞ぐ。
弱々しく助けを求める目と目が合った。
仕事帰りなのだろうか、パンツスーツを身に付けた女性だ。仁王立ちでその場に立ち竦んでいる。息苦しさに顔を歪ませボロボロと涙が零れていた。
彼女の体に巻き付くのは暗紫色の靄だ。手足も鼻もなく輪郭もない、ただぽっかりと目のような穴がふたつあいた塊が彼女の身体を締め上げている。
「あれは……魑魅!」



