飛んでいたカモメが、翼をたたんで降りてきた。
 そうして海の上に着水すると、すいすいと泳ぎだした。
 近くにいたもう一羽と並ぶ姿は、まさしくつがいのようだった。きっと、そうじゃないかな。
 そのようすを、わたしは見下ろしていた。

 ・・・

 あれから一年が経った。
 わたしは、あらためて海沿いのカフェに来た。ぐるりぐるりと螺旋階段を登った。
 そうしてたどり着いた二階から、窓の外に広がる景色を見ていた。
 何ひとつ変わっていなかったことが嬉しかった。豊かな自然も、ここまで歩いてこれたことも。
 ......そして、きみのことも。

 栞という名前をつけてくれた人がいた。
 仲間として認め合ってくれた人がいた。
 あたたかく迎え入れてくれた人がいた。
 人生の中でたくさんの相手に巡り会えたから、わたしはまた見出すことができた。生きる意味を、光かがやく希望を。
 これからも、歩いて行ける。心の中にきみを映しているから。
 
 カフェの軒先に、見覚えのある自転車が止まった。
 
 分かっていた。
 だれとも話さずに分かっていた。
 ――今日が出会える日だって。
 
 どんな話になるだろう。きっとたくさんのことを言われるかもしれない。
 それでも、今だけは昔のふたりに戻りたい。
 
 こちらに上がってくる足音に合わせて、振り返る。
 わたしはきみに、微笑みを見せた。

(おわり)