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20xx年 xx月xx日

わたしは泣いた。
みつきくんがいないから。
まわりの子たちは元気をだしてって言っている。お兄さんはしかたないだろうと言っている。
うさぎのぬいぐるみをわたされても、こんなのいらなかった。床になげたらあさひなさんにしかられた。
わたしはまた泣いた。

きのうはそのままねてしまった。
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20xx年 xx月xx日

へやのすみでひとりしゃがんでいる。
なにもしなかった。
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20xx年 xx月xx日

へやのすみでひとりしゃがんでいる。
なにもしたくなかった。

えほんをよまないのとあさひなさんはきいてきた。
うん、ってわたしは言った。
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20xx年 xx月xx日

へやのすみでひとりしゃがんでいる。
あちこちに手をおいてみる。でも、なにもつかめなかった。
近くにはみつきくんのお手てがあったはずなのに。
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 思わずため息が出た。
 夢見ていた願いはあっけなく壊れてしまい、たくさんショックを受けたのだろう。
 そろそろ小学校に上がる頃だろうか。物事を理解できるようになってほしいと願いながら続きを読みだした。

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20xx年 xx月xx日

今日はゆめをみた。
おかあさんにおんぶされていた。背中があたたかった。

朝になったら、あさひなさんがおしえてくれた。
これからしょうがっこうに行くんだと。

そして、おかあさんがおいていったこと、あたらしいおうちをさがしていること。

べつに泣かなかった。
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20xx年 xx月xx日

しょうがっこうはとても大きかった。
まわりにもたくさんの子たちがいた。はなしている子もいたけれど、わたしはどうすればいいか分からなかった。

おわりのじかんに、あさひなさんがむかえにきてくれた。
思わずお母さんってよびそうになっちゃった。
でも、あわてて"あさひなさん"って言いなおした。

わたしはどうすればいいか分からなかった。
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20xx年 xx月xx日

たいいくのじかんにはみんなわたしのことを見ておどろいていた。
いっぱい体をうごかしてたくさん曲げていたから。
クラスの子があれやってほしいって言ってきた。わたしは教えてもらいながら、ひだり足をうしろに持っていって、手でつかんだ。
そのまま立ってみたらみんなからはくしゅをもらった。

今日はとてもうれしい日だった。
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20xx年 xx月xx日

さんすうのじかんだった。
となりの子がすわったまま、じっとうつむいている。
えりちゃんだった。
先生がきても、みんなが本をひらいてもそのままだった。どうしたのときくと、きょうかしょを忘れたと言った。
わたしは見せてあげた。あの子はとてもよろこんでくれた。

学校がおわって、いっしょに帰ろうと言ってくれた。
でも......。
あわててごめんとあやまった。"お母さん"がむかえにくるからと言った。
あの子は笑ってじゃあねと手をふった。
わたしは笑顔を作った。

ほんとうは、だれもむかえになんて来ないのに。
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20xx年 xx月xx日

うそをついちゃってから、どうすればいいのか分からなかった。
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20xx年 xx月xx日

給食にパンが出てきた。
でもスープのほうがおいしかった。トマトの味がよくしていた。

食べ終わったら、みんな校庭に向かっていった。
なにかで一緒に遊んでいる。わたしはひとり教室のまどからながめていた。
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20xx年 xx月xx日

今日のお昼休みもみんなで遊んでいる。わたしはひとり教室のまどからながめていた。
みんなは楽しそうだった。
でも、わたしはここから見ているだけで楽しかった。

声をかけてくれた人がいた。
あさひなさんだった。先生と話してたんだよという。
ちゃんと給食を食べたのって聞いたから、味のついたごはんを食べた、でもパンの方がおいしいって答えた。
みんなと遊ばないのって聞いたから、ここでいいんだよと答えた。

そしたら、あさひなさんは帰っていった。
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20xx年 xx月xx日

あさひなさんはよく先生と話しているみたいだ。

時間があると、わたしのところに来てくれる。
しせつのことをどう話せばいいか分からないって言うと、話したかったら話せばいいし、話したいと思う子だけでいいよと教えてくれた。
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20xx年 xx月xx日

今日も<ひだまりのいえ>で男の子ふたりがけんかしていた。
絵本をとりあっていたんだけど、どんどんはげしくなっていった。
ふたりはうでとかふくとかをひっぱってて、絵本は床に落ちてしまった。
また大人に止められた。

だれも絵本のことなんて気にしてなかった。

わたしは絵本から目をはなせなかった。
本をひろうと、そのページをやぶった。
まわりの子がわたしの方を見た。大人もわたしの方を見た。みんながわたしのことを見ていた。
なにをしているのってあさひなさんが言った。

わたしはそこにあったがようしに絵をかくと、絵本にはりつけた。
だって、けんかでやぶれたページがかわいそうだったから。
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20xx年 xx月xx日

女の子がわたしの方にはなしかけてきた。
うさぎのぬいぐるみと遊ばないの、って聞いてきた。わたしはうんってへんじをした。
うさぎさんはずっとわたしがかかえているから、みんなはわたしのものだと思っているみたい。だから、みんなはうさぎさんと遊ばないでいる。

あさひなさんが<ひだまりのいえ>でうさぎのぬいぐるみをぬっていた。
ところどころがほつれていたり、わたが出ていたりしていた。
わたしがずっと大事にしてたのに、ぼろぼろにしちゃったんだ。
ごめんなさいってわたしは言った。
あさひなさんはこれからもたいせつにしてねって言った。

あさひなさんはお母さんみたいだなって思った。

すてないでほしいなって思った。
うさぎさんは、みつきくんとの思い出だから、わたしはずっとへやにおいてほしかった。
だから、まどの近くのあたたかいところにあればいいんだと思う。
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 僕もそうだった。小学校ではたくさんの不安を抱えていた。
 ふつうの家庭で育った子も、あたらしい環境に馴染めるか不安になるという。彼女の場合ならなおさらなのだろう。
 それでも、朝比奈さんがいてくれてほんとうによかった。