電光掲示板には、次の電車の発車時間が表示されていなかった。

「まじですか」
「まじだねぇ」

 少しだけ肌寒くなってきた秋のはじめの風に、小野寺麻衣は首をすくめた。少し薄着をしてきてしまったのかもしれない。横目で隣を見上げると、同じような仕草をしている芹沢凌太の頬は少し赤らんでいた。

 仕事を終えて、大きなプロジェクトの打ち上げに参加したばかりに、終電を逃した。学生みたいなことしたな、と麻衣は小さくため息を吐いた。

「小野寺は、ここから遠いんだっけ?」
「そうですね。乗り換えが一回あって、電車で二〇分くらいですかね」
「俺とあんまり変わらないか。とりあえず、どっか入れないか、歩くか」

 黒色のビジネスリュックを背負いなおした芹沢は改札に背を向けた。慌てて麻衣も後を追った。

「どっかって、どこですか?」
「ネットカフェ、漫喫、カラオケ、とか?」
「完全に学生のソレですね」
「言われてみればそうだな」

 クシャっと笑った横顔を見上げて、麻衣も口元が綻んだ。
 きっと、この人を好きなのは自分だけ。