スポーツドリンクを飲んだ私たちは体力も回復して、少しだけ歩くスピードも上がった。一キロごとにご褒美なんて言ったけれど、案外一キロなんて短いくらいかもしれない。
「二キロのご褒美はアイスだよね? そんなに上手くコンビニ見つけられるかな?」
「うーん、案外ありそうだけど」
「もしコンビニ見つからなかったら二キロのご褒美は何に変える?」
「じゃあ、グミ」
突拍子もないグミという言葉に私は隣を歩いている笠木くんを見てしまう。笠木くんは変わったことを言ったつもりもないようで、表情は特に変わっていなかった。
「なんでグミ?」
「いま俺のカバンの中に入っているから。コンビニなくても食べれるし」
「いつもグミ持っているの?」
「うん、グミと飴」
だから三キロのご褒美は飴にしようと言ってくれたのかもしれない。何よりいつもグミと飴を持ち歩いているのは可愛いと思った。深夜の空気に当てられたように笠木くんとの言動がいつもより可愛く見えてしまう。恋人でもないのにもっとこの時間が続いてほしいと願うのはこの変わった状況のせいだと思いたかった。
「グミって何味?」
いつもなら気にもならない質問だって今なら自然に聞けてしまう。
「いちご」
「ふふっ、かわいっ」
「え、なんで?」
「いちごって可愛くない?」
いちご味のグミが可愛いという感覚が笠木くんには分からないらしく、「例えばパイン味のグミだったら可愛くないってこと? パイナップルが可哀想じゃない?」と首を傾げながら意味の分からない疑問を抱いている。
「女子の可愛いにそんな深い意味はないんですー」
「女子ってムズイな。俺はパイナップルグミも可愛いと思うけど」
一キロまでの距離と違って、ツッコミのテンションは少し下がってきた。ずっと一キロまでの距離のようなテンションでは話せないし、今みたいなテンションの会話ですら楽しくて、笠木くんに惹かれ始めている自分を知る。
お酒がまだ残っているから? こんな状況だから?
様々な言い訳を作ろうと思えば作れて、まだこの感情を認めたくない。だって今認めてしまったら、純粋にこの時間を楽しめなくなってしまう。
「あ、コンビニ」
笠木くんの声に私がパッと遠くに視線を向けると、コンビニの看板が真っ暗な景色に光って見える。深夜のコンビニの光はどこか特別感があって好きだった。昼間のコンビニでは味わえない静かな雰囲気と独特の空気感。
コンビニに入ると冷房が聞いていて、少し滲んでいた汗がスッと冷たく引いていくのが分かった。
「長谷川さんはどのアイスにする?」
その笠木くんの聞き方で、私は今回も笠木くんが奢ろうとしていることに気づいた。
「笠木くん、アイスは私が奢るよ。ウォーキングの楽しさを教えてくれたから、そのお礼」
「いや、いいって」
「それに三キロ地点の飴も笠木くんがくれるんでしょ? アイスは奢らせて」
笠木くんは「ジュースよりアイスのほうが高いって」と言いながら、折れない私を見て「じゃあ甘える」と顔を緩めた。そして、すぐにいつものような軽口を叩く。
「じゃあ、このカップアイスにしよ」
「ちょっ……! それはもう高級アイスでしょ! 二キロで食べたらだめだよ!」
「じゃあ、何キロ歩いた時なら良いの?」
「十キロくらい……?」
「アイスのハードル高すぎる……」と笠木くんがお腹を抑えて笑っている。私の言葉に笠木くんがお腹を抑えるくらい笑ってくれるのが嬉しくて、つい口元が緩んでしまう。
「じゃあ、長谷川さん。一緒にこの棒付きアイスにしよ。俺、いちご」
「いちご味好きすぎない!?」
「割と好き。長谷川さんは?」
「パイナップルにする。さっきの話でパイナップル食べたくなってきたし」
5本入りとかの箱入り棒アイスじゃない一本売りの棒アイス。箱入りの棒アイスよりサイズが大きくて、いつも箱入りを食べている私はそれだけで特別感を感じてしまう。
コンビニの近くで腰掛けて、アイスを頬張る。パイナップルの酸味とアイス特有の甘さ、それとサッパリ感。いつもなら気にもせずに食べている細かな味まで見逃したくないと思った。
「パイナップル味美味しい?」
「うん、サッパリしてて美味しいよ。いちごは?」
「アイス界で結構上位に入るぐらい上手い」
「めっちゃ美味しいんじゃん」
普通にそう言っただけなのに、笠木くんは「一口いる?」と私にいちご味のアイスを差し出した。なのに、すぐに引っ込めてしまう。
「ごめん、周し食べ嫌だよな」
笠木くんは冗談めかして「しかも俺の食べかけだし」と付け足した。笠木くんは上手に空気を悪くしない人だと思う。きっと今も私が一瞬固まってのを見て、自分の食べかけが嫌だと思ったのだろう。
本当は、固まったのは私が勝手に笠木くんを意識したから。でも、今更食べるなんて言ったら余計に変な空気にしてしまう。一体いちご味のアイスはどんな味だったのだろう。笠木くんが美味しいというアイスはどんな味だったのかな。
アイスは無意識に溶ける前に食べるもので、すぐに食べ終わってしまう。アイスなんか溶けてしまっても良いから、もっと……なんて考えは首を振って飛ばした。
「もう半分まで来たかー。じゃあ、長谷川さん。あと二キロがんばろ」
始まる前の私だったら「まだ二キロ」って思っている。今は「もう二キロ」なのに。
「二キロのご褒美はアイスだよね? そんなに上手くコンビニ見つけられるかな?」
「うーん、案外ありそうだけど」
「もしコンビニ見つからなかったら二キロのご褒美は何に変える?」
「じゃあ、グミ」
突拍子もないグミという言葉に私は隣を歩いている笠木くんを見てしまう。笠木くんは変わったことを言ったつもりもないようで、表情は特に変わっていなかった。
「なんでグミ?」
「いま俺のカバンの中に入っているから。コンビニなくても食べれるし」
「いつもグミ持っているの?」
「うん、グミと飴」
だから三キロのご褒美は飴にしようと言ってくれたのかもしれない。何よりいつもグミと飴を持ち歩いているのは可愛いと思った。深夜の空気に当てられたように笠木くんとの言動がいつもより可愛く見えてしまう。恋人でもないのにもっとこの時間が続いてほしいと願うのはこの変わった状況のせいだと思いたかった。
「グミって何味?」
いつもなら気にもならない質問だって今なら自然に聞けてしまう。
「いちご」
「ふふっ、かわいっ」
「え、なんで?」
「いちごって可愛くない?」
いちご味のグミが可愛いという感覚が笠木くんには分からないらしく、「例えばパイン味のグミだったら可愛くないってこと? パイナップルが可哀想じゃない?」と首を傾げながら意味の分からない疑問を抱いている。
「女子の可愛いにそんな深い意味はないんですー」
「女子ってムズイな。俺はパイナップルグミも可愛いと思うけど」
一キロまでの距離と違って、ツッコミのテンションは少し下がってきた。ずっと一キロまでの距離のようなテンションでは話せないし、今みたいなテンションの会話ですら楽しくて、笠木くんに惹かれ始めている自分を知る。
お酒がまだ残っているから? こんな状況だから?
様々な言い訳を作ろうと思えば作れて、まだこの感情を認めたくない。だって今認めてしまったら、純粋にこの時間を楽しめなくなってしまう。
「あ、コンビニ」
笠木くんの声に私がパッと遠くに視線を向けると、コンビニの看板が真っ暗な景色に光って見える。深夜のコンビニの光はどこか特別感があって好きだった。昼間のコンビニでは味わえない静かな雰囲気と独特の空気感。
コンビニに入ると冷房が聞いていて、少し滲んでいた汗がスッと冷たく引いていくのが分かった。
「長谷川さんはどのアイスにする?」
その笠木くんの聞き方で、私は今回も笠木くんが奢ろうとしていることに気づいた。
「笠木くん、アイスは私が奢るよ。ウォーキングの楽しさを教えてくれたから、そのお礼」
「いや、いいって」
「それに三キロ地点の飴も笠木くんがくれるんでしょ? アイスは奢らせて」
笠木くんは「ジュースよりアイスのほうが高いって」と言いながら、折れない私を見て「じゃあ甘える」と顔を緩めた。そして、すぐにいつものような軽口を叩く。
「じゃあ、このカップアイスにしよ」
「ちょっ……! それはもう高級アイスでしょ! 二キロで食べたらだめだよ!」
「じゃあ、何キロ歩いた時なら良いの?」
「十キロくらい……?」
「アイスのハードル高すぎる……」と笠木くんがお腹を抑えて笑っている。私の言葉に笠木くんがお腹を抑えるくらい笑ってくれるのが嬉しくて、つい口元が緩んでしまう。
「じゃあ、長谷川さん。一緒にこの棒付きアイスにしよ。俺、いちご」
「いちご味好きすぎない!?」
「割と好き。長谷川さんは?」
「パイナップルにする。さっきの話でパイナップル食べたくなってきたし」
5本入りとかの箱入り棒アイスじゃない一本売りの棒アイス。箱入りの棒アイスよりサイズが大きくて、いつも箱入りを食べている私はそれだけで特別感を感じてしまう。
コンビニの近くで腰掛けて、アイスを頬張る。パイナップルの酸味とアイス特有の甘さ、それとサッパリ感。いつもなら気にもせずに食べている細かな味まで見逃したくないと思った。
「パイナップル味美味しい?」
「うん、サッパリしてて美味しいよ。いちごは?」
「アイス界で結構上位に入るぐらい上手い」
「めっちゃ美味しいんじゃん」
普通にそう言っただけなのに、笠木くんは「一口いる?」と私にいちご味のアイスを差し出した。なのに、すぐに引っ込めてしまう。
「ごめん、周し食べ嫌だよな」
笠木くんは冗談めかして「しかも俺の食べかけだし」と付け足した。笠木くんは上手に空気を悪くしない人だと思う。きっと今も私が一瞬固まってのを見て、自分の食べかけが嫌だと思ったのだろう。
本当は、固まったのは私が勝手に笠木くんを意識したから。でも、今更食べるなんて言ったら余計に変な空気にしてしまう。一体いちご味のアイスはどんな味だったのだろう。笠木くんが美味しいというアイスはどんな味だったのかな。
アイスは無意識に溶ける前に食べるもので、すぐに食べ終わってしまう。アイスなんか溶けてしまっても良いから、もっと……なんて考えは首を振って飛ばした。
「もう半分まで来たかー。じゃあ、長谷川さん。あと二キロがんばろ」
始まる前の私だったら「まだ二キロ」って思っている。今は「もう二キロ」なのに。



