そこは一生足を踏み入れることは出来ないと思っていた奇跡の地。
 キラキラと星のように光るペンライトとこの世界で一番大好きな人たちが輝いているステージ。家族や友達と来た訳じゃない。それでも楽しくない訳がなかった。
 初めて来たライブは夜公演だったのに、会場の中は明るくて時間すら忘れてしまう。

「もしかしてkiriameさんですか?」

 帰り際に声をかけられて、振り返れば知らない顔の20代くらいの女の子。それでも、その子のトートバッグには推しをモチーフにしたぬいぐるみキーホルダーがついている。公式グッズのキーホルダーで私も同じものをつけている。私の場合はキーホルダーに自作のぬいぐるみ用衣装を着せているけれど。
 しかし私はSNSは見る専で、誰とも繋がっていない。

「えっと……違います……」

 人見知りだからこそ誰とも繋がっていなかったのに、まさか人違いで声をかけられるとは思っていなかった。

「え、ごめんなさい! kiriameさんが同じような衣装を着せたキーホルダーの写真を載せていて、それで……」

 目の前の女の子は本当に慌てているようで、申し訳なさそうにしている。綺麗に髪をハーフアップにしていて、毛先も上手に整えてある。そんな清楚な髪型とは少し合わない大きなリボンは、頭のサイドに付けられている。ライブで後ろの人が見えなくならないようにサイドに付けられたリボンは私の推しのイメージカラー一色(いっしょく)だった。申し訳なさそうな表情を見ていてもどう見ても悪い子には見えなくて、「大丈夫ですよ」と言った後につい言葉を付け足してしまう。

「今日のハルマ、とっても格好良かったですよね」
「っ! 分かります!」

 その子は私のキーホルダーをそっと指差して、「ハルマ推しさんですよね?」と確認してくれる。

「はい。でもライブは初めてで……」
「そうだったんですか! 楽しめましたか!?……って私が言うことじゃないですよね!」

 女の子はまだライブの興奮冷めやらないという感じで、ハイテンションに笑っている。同い年くらいであるはずなのに、どこか私より幼く見えるのは愛嬌の差だろうか。

「あの……ずっと思っていたんですけれど、そのブローチ可愛いですね!」

 女の子が私の胸元についているブローチを指さした。趣味で作ったドライフラワーを中に入れ込んでいるブローチ。自信作だったので気づいて貰えたのが嬉しくなってしまう。

「ありがとうございます。前にハルマがラベンダーが好きだと言っていたので……」
「ですよね! 絶対ハルマに合わせてあると思って!」

 女の子がグッと親指を立てて、「めっちゃ似合ってます!」と笑っている。

「ぬいぐるみの衣装にしても、ブローチにしても、手先が器用なんですね。SNSとかやっていますか?」
「やっていなくて……」
「そうでしたか! もしかして一人で楽しみたい派でしたか? いっぱい話しかけちゃってから言っても遅いですけれど……」
「あ、全然。人見知りな上に機械音痴でSNSをやる勇気がなくて」

 女の子が「分かります、私もなんとか使い方調べながらやってます」とスマホを出して、アカウントを見せてくれる。

「写真の投稿の仕方とかハッシュタグとか案外難しくて。でもハルマ推しさんとお話がしたくて頑張ってる感じです」

 SNSをやっていないと言っても何も嫌な雰囲気を出さずにいてくれることが嬉しくて、少し話しただけでも良い子だと分かるくらいだった。
 その時、私の横を二十代前半くらいの長身の男性が通り過ぎた。その人のバッグについているキーホルダーを見て、女の子は「kiriameさんだ!」と目を輝かせた。男の人のバッグには確かに私のキーホルダーと似た衣装が着せられている。女の子の声に男性はパッとこちらを振り返った。反応からして「kiriame」という人で間違いないのだろう。そのkiriameという人に女の子はスマホでSNSのアカウント画面を見せている。元から繋がっていて、今日会えるかもしれないと互いに知っていたようだった。
 暫くして女の子は私の方を振り返った。

「あの、この方kiriameさんと言って、凄く手芸が上手な方なんです。あまりに上手な衣装を作るので私がメッセージで声をかけたことがあって……直接話したことはなかったので先ほどは勘違いして声をかけてしまったんです」

 確かにkiriameさんのバッグについている衣装は私と同じようなデザインだったが、縫い目の綺麗さや細かさなデザインが全く違った。どう考えても相手は手芸上級者だろう。
 kiriameさんは女の子から紹介されて、私にペコっと頭を下げた。相手も私も距離感を探っているところだろう。
 しかしkiriameさんは私のキーホルダーを見ると、目の色が変わって「お上手ですね」と声をかけた。

「デザインが可愛くて素敵です。デザインもご自身でやられているんですか?」
「え、はい」
「そうなんですね。私はデザインはからっきしで、いつも姉が決めてくれているんです」

 kiriameさんはそのまま私のキーホルダーに顔を近づけて、じっと見ている。知らない男性なのでつい驚いてしまったが、kiriameさんがキーホルダーにしか目に入っていないようだった。
 その時、女の子がアカウントを見せてくれているスマホの時計が目に入った。

「あ! 時間!」

 私が突然声を上げたのを聞いて、女の子もkiriameさんも驚いている。私は慌てて「ごめんなさい、新幹線が……」と説明する。女の子はサァッと申し訳なさそうに顔の色が引いて、すぐに「こちらこそごめんなさい!」と謝った。

「何時の電車ですか!?」
「えっと……」

 先ほど見た時計の時間から考えると、もう終電には間に合わないだろう。しかし今そのことを言えば、女の子は気を遣ってしまう。

「大丈夫、ギリギリ間に合いそう」
「すぐに行ってください! 呼び止めて本当に申し訳ないです!」
「全然、私も楽しかったので!」

 私が駅まで向かおうとすると、最後に女の子が「もし次の現場で会ったらまたお話ししましょー!」と叫んでいる。私は笑顔で手を振りながら駅まで急いだ。
 駅まで急ぎながら、もう間に合わないと分かりつつも走れば間に合うかもしれないと思ってしまう。駅まで徒歩15分と書かれていて、発車まで18分。走ればいけそうだが、なにせ駅の構内も広い。それに慣れた道ではないのでスマホで道を確認しながら行く分時間がかかった。
 本来の私は長野県の人間で、関東にくわしいはずもなかった。初めての遠征に一人で来たから時間に余裕を持たせすぎなほどだったのに、ライブ終わりの余韻に浸っいるうちに案外時間は経ってしまっていたらしい。
 道がわからなくて定期的にスマホで確認しなければいけないのが手間で、走っても10分ほどかかってしまった。新幹線の発車まで8分。しかし乗り場の場所も分からない私ではほぼ不可能だろう。その時、後ろから「急いで!」と声がした。振り返った瞬間にkiriameさんが私の横まで追いついている。

「切符を見せてくれませんか?」

 kiriameさんの言葉に私が手を伸ばして切符を渡すと、確認してすぐに返してくれる。

「まだ間に合うと思います!」
 
 すぐに進み始めてしまうkiriameさんの後ろを私は慌てて追いかけていく。なんでここにいるのかとか、追いかけてきてくれたのか、とか色々聞きたいことはあるのにどう見ても聞ける状況ではない。
 そのまま追いかけているうちに「新幹線乗り場」と書かれた看板が見えてくる。まだ間に合うかもしれない! そう思ったのに、「新幹線乗り場」と書かれた場所から新幹線の搭乗口までは私が思ったよりも距離があった。遠くに乗りたい新幹線は見えたが、そのまま発車してしまう。

「あー!」
 
 叫んだのは私ではなく、kiriameさんだった。二人して肩を揺らしながら息を整えて顔を見合わせて笑ってしまう。

「ごめん、間に合わなかった」
「全然……! 追いかけて下さったんですか?」

 私は先ほど聞けなかった質問をしながら近くのベンチに腰掛ける。

「新幹線で帰るってことはこの辺の人じゃないと思って。それにakiさんの前ではああ言っていたけれど、間に合いそうな雰囲気がなかったから」

 「akiさん」はきっと先ほどの女の子だろう。

「そんなに分かりやすかったですか……?」
「うーん、どうだろ。俺もよく新幹線使うから分かっただけかも。実際今日も新幹線だし」
「え!?」
「残念ながら俺が予約していた新幹線はライブが終わった時点で間に合わないことが確定していたから。俺は明日の夜、夜行バスで帰ることにした」

 kiriameさんは気にもしていないようで、私の座ったベンチから一つ開けて座る。先ほどまで敬語だったが、走って疲れたのか敬語を忘れているようだった。

「まぁあれだけ楽しいライブに行けたから、満足だし気にしてないんだよね。明日も休みだし……って、明日休みですか?」
「はい」
「ああ、良かったです」

 まるで思い出したような敬語に私はつい笑ってしまう。

「敬語じゃなくて良いですよ」

 私の言葉にkiriameさんは「いや、さっきは動揺していただけなので」と恥ずかしそうに服の裾を直している。夜のホームに吹いている風が涼しくて、走ったせいで滲んだ汗が冷えていく。普通なら寒いかもしれないが熱った身体だと気持ち良いくらいだった。
 
「そのキーホルダー可愛いですよね」

 kiriameさんの視線は私のトートバッグに向いている。癖でキーホルダーを握ってしまう私の手に気がついたようだった。このキーホルダーはお守りのようなもので、何かあるとすぐに握る癖がついていた。私はすぐに手をぱっと離して、話題を変えるようにkiriameさんのキーホルダーを指差す。

「kiriameさんも衣装は手作りなんですよね。ハルマの好きな物が衣装の柄になっていて可愛いです」

 ハルマの好きなトランプゲームやファッションなどを柄にしている衣装は細かなところまで綺麗に仕上がっていた。

「お姉さんがデザインをしてくれているんですよね? お姉さんもハルマ推しなんですか?」
「ええ。むしろ姉が先に好きで俺は布教された感じです。今回も本当は姉も一緒に来たがっていたのですが予定が入ってしまって」

 新幹線乗り場は段々と人が減っていく。もう終電が行ってしまったのだから当たり前だが、普段は人が溢れている駅とは思えなかった。それでも私の地元の駅とは比べ物にならないほど人がいるけれど。

「kiriameさんはどこから来たんですか?」
「愛知県からです。貴方は……って何と呼べば良いですか? もちろん本名じゃなくて良いので、何か名前があると……」

 SNSもやっていない私は本名以外に名乗ったことがなくて言葉に詰まってしまう。数秒考えて、何とか本名の咲良(さくら)をもじって「サラ」と名乗ることにした。

「サラさんはどこから? 北陸新幹線で来たんですよね?」
「長野県です。今日も朝イチから新幹線に乗ってきたんですけれど、案外ライブまで時間がなかったくらいです」
「東京観光は?」
「少しだけライブ会場の周りを。会場から離れて戻れなくなったら嫌なので……」
「あはは、分かります。ライブを見に来ているのに離れたら不安になりますよね」

 人がホームから構内に入っていくのをボーッと見つめながら、そんな他愛のない話をしていく。お互いに終電を逃した者同士、時間は有り余っているくらいだった。先ほどまで時間に追われていたのに今は時間があり過ぎるという真逆の出来事なのに身体は勝手に適応するようで、もうこの時間を楽しんでいた。
 それに私たちには好きなアイドル、推しが同じ、手芸が趣味、という共通点がある。会話はどれだけでも広げられた。

「そういえば今日のハルマの衣装見ました!?」
「見た見た。すっごい凝ってたよね、ミニサイズで同じ雰囲気の衣装作ってこの子に着せたいくらいだった」

 kiriameさんがキーホルダーを掴んで話すことに私は同意してしまう。手芸が趣味で推しも同じなんていう人は今まで出会ったことがなかったので気分も自然に上がっていく。

「絶対裾のレースの部分難しいですよね。あのふんわり感は出せないです。ハルマはレース生地も格好良く着こなしていたけれど」
「分かる。レースの生地選びから難しそう」

 kiriameさんの敬語もまた外れたけれど、私の敬語は何故かすぐに外れなかった。人見知りで初対面の人と話すことが少ないからだろう。その時、kiriemeさんのスマホがピコンと鳴った。kiriameさんがスマホのロック画面に表示されたメッセージを確認して、私に見せる。

「akiさんがサラさんの新幹線が間に合ったかって聞いているけれど、どうする? 俺が追いかけるのを見ていたから心配だったんだと思う」

 この「どうする?」はどう返答するかということだ。

「間に合ったと返してくれると嬉しいです。akiさんは東京の人ですか?」
「ああ、ライブ会場からバスで帰れる距離だって言ってたよ」
「良かった。じゃあ、akiさんは大丈夫ですね」
「あはは、優しいな」

 軽くkiriameさんが言った優しいについ緊張してしまう。他意もなければ、深い意味もない言葉であるはずなのに、状況も相まって緊張が遅れてやってくる。本名も知らない人といま隣に座って話している。人見知りの自分が経験したことのない状況だと実感するとさらに緊張が高まっていくのが分かった。
 二人で駅を出て、近くの24時間営業の居酒屋に入る。どちらもお酒を飲まないタイプだったのでノンアルコールを注文した。酔ってもいないのに手芸の会話と推しの会話、それに今日見たライブの感想で話はさらに盛り上がっていった。

「今日のライブのアンコール曲がバラードだったのは意外だったな。いつもダンスナンバーが多かったから」
「そうなんですか?」
「ああ。ライブに行ったのは今日で六回目だけれど、今までの五回ともそうだったよ」
「わ、いいな! 私は今日ハルマを見たのが初めてだったので、もうテンション上がりまくりで!」

 気づけばちゃんと敬語になっているか怪しいところまで気軽に話せるようになっていた。

「ライブ初めてなの?」

 kiriameさんの驚いている雰囲気を見て、「しまった」とすぐに後悔する。ハルマの熱狂的なファンであることはもうバレているので、何故ライブが初めてなのか不思議に思ったのだろう。それでもここまで来て隠す気にはなれなかった。

「実は仕事がブラック企業で、ずっと休みも余裕もなかったんです。それで少し前に心を壊して会社を辞めました。今は別の会社に転職して休めるようになったので大分回復しました」

 「結構給料は減りましたけれど」と苦笑いしてしまう。
 私にとってライブは一生足を踏み入れることの出来ない場所だと思っていた。普通の人が聞いたらそんな大層な物じゃないと思うかもしれない。隙間の休みで行けるだろうと思うかもしれない。
 それでも前の会社にいた時の私はたまの休日は睡眠に使うしかなくて、起きても出かける気力などなかった。ずっとこのままだと思ってしまうくらい会社に支配されて、ライブ会場は一生入れないと思うほど希望がなかった。

「前の会社で希望はなかったけれど……たまに家で見る推しが癒しで。会社を辞める勇気が出ない時はたくさん曲を聞いてから辞表を出しました。余裕が出来てから見た推しはさらに輝いて見えて!」

 暗い話じゃないと伝えるために、私は元のテンションに戻していく。実際暗い話のつもりはなかった。だってもう終わったことだと自分の中で割り切れている。それでもkiriameさんは無理に明るい話にしなくても良いというように、釣られて笑ってはくれなかった。その優しさについもう少しだけ弱音を言いたくなってしまう。

「ずっと意地を張ってたんです」
「意地?」

 仕事が忙しくて、休日出勤なんてざらにある会社。ライブに行けない悔しさを誤魔化す私の言い訳はずっと前から一緒だった。

「私の口癖は『画面越しで満足出来るタイプなんだよね! 今は液晶も綺麗だし音響の良いスピーカー使えば、見に行かなくても特等席の家のソファがあるから』って。こんなに長い文章なのに一文字も間違えずに言えるくらい、誰にも批判されていないのに推しの話をする時は自分から言ってしまってました」

 ノンアルコールカクテルが入ったグラスの周りには水滴が付いている。少しぬるくなってしまったカクテルを一口含んでも、さっぱりはしなくて甘さだけが残る感覚がした。

「強がって強がって、会社でも出来るって言い聞かせて、最後に無理!って全部を一気に中断した。中断せざるおえなくなった。それで初めて無理して限界が来てからじゃ遅いって気づいたんです。それから好きなことにも目を向けるようになって、昔好きだった手芸も再開して……って感じです」

 淡々と視線も合わせずにした私の話にkiriameさんがどう返答するか不安になってしまう。空気を悪くしてしまったかとか余計なことばかり頭をよぎる。

「俺の本名、(きり)なんだよね」
「え……?」

 突然の意味の分からない告白。

「本名の桐から、そのまま適当にkiriameにした。サラさんが教えてくれた秘密のお返し」
「本名は言ったらダメじゃないですか!?」
「見知らぬ人と飲んておいて何を今更。しかも下の名前だけだし」
「そうですけれど! 本名はダメです!」
「まぁもう良いよ。でもサラさんは本名教えないでね。ネットリテラシーも大事だよ。これこそ今更って感じだけど」

 本名を教えないで、と普通に言われただけなのに心がキュッと締まったのが分かった。まるでこの時間に浮かれているような自分が嫌になる。だってこの時間に浮かれているのは私だけだ。今日までSNSすら繋がっていなかった人。ネットリテラシーなんていう問題ですらない。だって私はこの人のSNSアカウントすら見たことがない。
 ぬるくなったカクテルを飲み終われば自然に居酒屋を出て、お互いが予約した別のホテルに向かって歩いていく。

「ねぇ、サラさん。次のライブも来るの?」
「まだ日程も決まってないはずじゃ……」
「うん、だから行けたら来る予定?」
「そりゃ行けたら行きますよ」
「じゃあ、また会えるかもね」

 連絡先も知らないのに、無邪気にそういう人は狡いと言っても良いのだろうか。

「ライブ会場って偶然会えたりするんですかね?」
「結構会えるもんだよ、俺も知り合いとなんやかんやすれ違ったりするし」

 こんな会話をしても、「また会う」約束はしない。
 暗い夜道を歩きながら私のホテルの近くまで来た。電柱の横の小さなライトの下、私たちは足を止める。もう「今日はありがとうございました」とお礼を言えば、二度と会えないかもしれない。それでもそれ以外に言う言葉なんてない。
 私が言葉を言えないでいるうちにkiriameさんが先に「今日はありがとうね」と言ってしまう。

「こちらこそありがとうございました……」

 気付かぬうちに私はトートバッグについたキーホルダーを握っていたが、何の勇気が欲しいのかすら分からない。分かりたくなかった。SNSくらいやっておけば良かったと今更後悔しても遅くて。
 もしSNSをやっていたら次の連絡も出来たかとか、もし今連絡先を聞いたらとか、考えても身体は動かない。案外そんなもので。だから言える範囲で、最大限の勇気を振り絞った。

「次のライブは絶対に行くことにします」

 私の言葉にkiriameさんが笑っている。その姿すらどこか寂しく感じてしまった。
 別れる瞬間、kiriameさんが「次はお互い終電逃さないようにしないとな」と呟いた。

 きっと頷けなかったのは、ライブで疲れていたから。

 そう自分に言い聞かせながら見上げた空は、三日月が雲で隠れているようないつも通りの夜空だった。


 fin.