「今日、もしキミがこの眼鏡の話題に触れたくれたら、”勝負”しようって決めてたんだ」

「勝負……って、なんのことですか?」

「気づいて欲しかったんだ。キミが好意を寄せてくれたように、僕もこの眼鏡からキミを特別な目で見ていたことを」

「先……生…………」


 バックンバックン……。
 心臓の鼓動がバカみたいに早くなっていると、彼は眼鏡を外して私の目にかけた。
 度が合わないから視界はボヤけているけど、レンズ越しに見えないわけじゃない。
 一生懸命見ようとしてるし、返事が聞きたくてはやる気持ちが抑えきれない。


「この眼鏡のレンズはキミだけを見ていた。いい時も、悪い時も、キミだけを映していたんだ」

「なら、どうして気持ちに応えてくれなかったんですか? 私はてっきり先生に気がないかと……」

「当時は教師という立場上、生徒との恋愛が禁じられていた。だから、どういう返事が最適なのかと考えた結果、キミの成長につなげた。そしたら、いつか僕から迎えに行けると思ったから」

「えっ……」

「あれから約3年半……。いまなら堂々と言える。恋をしに来たよ。大人になったキミと……ね」


 フィルターが外された瞳は、空白の時間を忘れさせてしまうくらい穏やかに満ちあふれていた。
 気づかなかった。ワインレッドの眼鏡に込められていた想いを。それに、「キミはまだ子どもだよ」と言った意味さえ。