――帰り道、暗闇に包まれて肩を落としながら駅へ向かう集団に遅れてついていく。
 せっかくの同窓会だったのに、最後は誰とも話す気になれなかった。
 ただ、しおれた風船のような気分のまま千鳥足を前に進ませている。

 すると、後ろから誰かが肩を叩く。赤い顔のまま振り向くと、そこには久保田先生の姿が。


「暗い顔してどうしたの? なにか嫌なことでもあった?」


 まるで当時に遡ったかのようなまっすぐな瞳。
 先生はズルい。
 恋心を刺激してくるから目が離せなくなるし、心配なんてされたらよけい諦められなくなっちゃうよ。


「先生は〜、今日なにか勝負するつもりだったんですかぁ〜〜?」


 卑屈になった心情が隠しきれず、仏頂面のままろれつが回らない声を届ける。
 お酒の力がなければ多分ここまで言わなかった。
 でも、答えなんて聞きたくない。
 どんなに酔いが回っていても、幸せな報告なんて耐えきれる自信がないから。


「え?」

「さっき聞こえてきたんですぅ〜。ワインレッドの眼鏡は特別な日にかけてるんですよねぇ。だから今日は特別ななにかをする日なんでしょ〜」


 先生は落ち込んだり不安そうな素振りを見せない。もう勝負後なのかな……なんて思わせてくるほど。
 自分でもバカバカしくなるくらい心の中は暴風域。『特別な日』という概念が脳裏を駆け巡っているし。特別ななにかを聞いたところで自分にメリットなんて一つもないのにね。

 私が半開きの目のままふらふらとした足取りで突っかかっていると、彼はプッと笑う。


「……想像以上に鈍感なんだね」

「どういうことですか〜?」

「さっき、『先生は相変わらずワインレッドの眼鏡なんですね』って言ってたけど、これはキミと二人きりのときしかかけてないよ」

「え! それって……」


 予想外の展開に見舞われた瞬間、自分でも驚くほど酔いが引いた。
 なぜなら、記憶の中で色濃く残されていたワインレッドの眼鏡に”特別”が感じられたから……。