――あれから2ヶ月後の同窓会当日。
 会場前方に並べられているテーブルには、バイキング形式の料理に加えてビールやワインや日本酒などが並んでいる。
 ドレスコードは正装。男子は皆スーツ姿だからお目当ての先生はなかなか見つからない。

 首を左右させて会場を眺めていると、低くて穏やかな聞き覚えのある声が耳に届く。
 と同時に、離れ離れだった時間を埋めるかのように胸が高鳴った。


「先生! お久しぶりです」


 再会を喜んでいる人混みをかきわけて笑顔で声をかけると、ワインレッドの眼鏡のレンズが私をとらえたと同時に口角が上がった。
 それを見た途端、恋の記憶が荒波のように押し寄せてくる。


「おぉ、相原。久しぶり。元気だった?」

「はいっ!! 先生は相変わらずワインレッドの眼鏡なんですね。素敵です」


 とっくに失恋してるというのに、顔がみるみるうちに熱くなっていく。
 いまも昔も変わらないときめきに虚しさを覚えるほど。


「あ……っ、あはははっ!! 相原の記憶の中の僕ってそうなんだね」


 先生は肩の力が抜けたように笑った。
 その笑顔は、高校生時代に遡ったかのような気分にさせてくれる。


「だって、眼鏡は先生のトレードマークですから」

「僕のトレードマーク……か。なるほどね」


 彼は目尻を下げたまま人差し指の関節で顎をさわった。
 なにか間違ってたかな?
 私は彼の意味深な反応に首をかしげた。