共鳴の間の光が静まり、床に座り込んだ奏太の周囲を、誰もが囲んでいた。
 全員無事だった。
 だが、球体の中心が静かになった今──彼らには最後の“鍵”が問われていた。

 それは、“最も隠したい後悔”を、今ここで声に出すこと。
 もう誰かに代弁させるのではなく、誰のせいにもせず、自らの言葉でさらけ出すこと。

 最初に、にこが小さく口を開いた。
 「……私、ずっと“嫌われるのが怖くて”……小さな嘘ばかりついてました。
 でも、それって結局、誰のためでもなかった。
 本音でぶつかる勇気がなかっただけ。
 それが……私の後悔」

 誰も口を挟まなかった。
 否定も、慰めもしない。ただ、にこの言葉を受け止めるように空間が静まり返る。

 続いて、健司が眼鏡をずらしながら言った。
 「僕は……“完璧な回答”しか口にできないようなふりをしてた。
 それ以外の答えを言うのが、怖かった。
 間違えるのが、怖くて……でも、今思えば、失敗した方が、人と近くなれたかもしれないって思う。
 それが……僕の、後悔です」

 千紘、永遠、沙也加、宗一郎……順番に、一人ひとりが静かに口を開いていく。
 心に鍵をかけていた言葉が、解き放たれていくようだった。

 「他人を否定したくなかったから、共感したふりをした。結果、誰も守れなかった」(千紘)
 「バカなフリして、本気になるのが怖かった。ずっと、逃げてた」(永遠)
 「正論ばっかり言ってた。……そのせいで、誰かの気持ちを見てなかった」(沙也加)
 「近道ばかり選んで、人を置き去りにしてた。それに気づいたのは……今日が初めてだ」(宗一郎)

 彼らの声が重なるたび、共鳴の間の空気が、徐々に軟らかくなっていく。
 冷たい鉱石の壁面が、ひび割れのような虹の筋を浮かべ始めていた。

 沈黙が、一つの呼吸をもって破られた。
 マリアが、背筋を伸ばして立ち上がる。
 「……私は、人と関わるのが嫌いなんじゃなかった。
 ただ、関わって壊れるのが怖かっただけ。
 何度もひとりになって、それを正当化してた。
 本当はずっと……繋がっていたかったのに」
 彼女の声に、微かに震えが宿る。

 そのあとを、ライランが続いた。
 「僕は誠実でいることが、自分の強みだと思ってた。
 けど……時には、誰かの期待を裏切らなければならないこともあった。
 それが怖くて、選べなかった。
 信じるというのは、時に信じきれなくなることすら受け入れることだ。
 それが、僕の後悔」

 ついに、全員の声が揃った。
 誰もが“自分の後悔”を認め、それを声にして、世界に差し出した。
 そう、それはまるで──“罪の告白”ではなく、“未来への贈与”のようだった。

 そのとき、中央の球体が静かに砕けた。
 粉々になったわけではない。
 むしろ──それは“粒子”となって舞い、虹の光を描きながら、空間に散っていった。

 島の震動が止む。
 壁に浮かんでいた映像も、すべて消えていた。

 誰かが呟いた。
 「……終わった?」

 奏太が、ようやく立ち上がる。
 「いや──
 ここからだよ。俺たちの、未来は」

 それは、決して爽快な“勝利”ではなかった。
 だが、彼らは知っていた。
 これは「手放す勇気」の結果なのだと。

 ガラスのように繊細だった後悔が、誰かの言葉によって共鳴し、そして、消えていった。

 その静けさは、崩壊の前触れではなかった。
 再生の序章だった。