共鳴の間に残された最後の震えは、まだ微かに鼓動を打っていた。
 その中心で、奏太の身体に繋がれた装置が、再び不安定な光を灯す。

 「だめ……まだ、“核”が残ってる!」
 健司が観測機を覗き込んで、叫んだ。
 「後悔の根源……“個”じゃなく、“集合の意思”が残ってる……!」

 「つまり、みんなの声だけじゃ足りないってこと?」
 千紘の言葉に、マリアが静かに首を振る。
 「違う……これは、“祈り”が必要なの。嘘じゃなく、信じる心で……“共鳴”を導かなくちゃいけない」

 その時、にこが前に進み出た。
 彼女は、装置の前に膝をつき、まっすぐ奏太の目を見つめる。

 「奏太……私は、あなたのことがずっと怖かった。強すぎて、自信があって、私とは正反対で。
 でもね……あなたが“後悔”を選んだとき、私、少しだけ勇気が出たの。
 だからお願い、戻ってきて。
 “嘘”なんかじゃなくて、“本音”で、あなたを呼ぶよ」

 それは彼女にとって──生まれて初めての、声を震わせない叫びだった。

 装置がきしみ、奏太の胸が上下する。
 呼吸が──戻った。

 光が、波のように広がっていく。
 それに合わせて、仲間たちも次々に声をあげる。

 「お前がいなきゃ、この航海、報告書が完成しねえだろ!」(宗一郎)
 「ツッコミ役がいないと、私の分析も台無しよ!」(沙也加)
 「今さら倒れても、謝らせる相手がいないと困るじゃん!」(永遠)

 そして、最後にライランが口を開いた。
 「君の“選択”に、僕たちは賛同する。
 だからもう、背負うのをやめて。
 僕たちがいる」

 光が天井まで達し、島の構造が──変化を始めた。

 光の奔流が静かに渦を巻くように天井から降り注ぎ、まるで“天の共鳴”が始まったかのようだった。
 その中心に立つ奏太の肩が、ゆっくりと上がり、呼吸が明確になっていく。

 「……俺は……ずっと……信じられなかった」
 静かな声が、共鳴の間全体に響き渡る。
 「誰かに任せることも……誰かを頼ることも。
 でも、今は分かる。お前らがいたから……俺はここで、叫べるんだ」

 その瞬間、彼の背後で“後悔の球体”が、再び鼓動を打った。
 だがそれは、かつてのような支配の響きではない。
 穏やかで、共に呼吸をするようなリズムだった。

 「今ここにいる皆が、心の奥からの言葉を重ねてくれた。
 俺も──偽らない言葉を、もう一度だけ叫ぶ」

 「俺たちは……もう後悔に縛られない!
 この島に、生きる意味を教えてやる!」

 声が放たれた瞬間、球体に走っていた全ての亀裂が一気に広がり、まるで薄氷が割れるような音が、空間を支配した。
 光が炸裂した。
 だが、痛みも恐怖もなかった。
 むしろ温かく、懐かしい記憶の中に沈むような感覚だった。

 装置が完全に沈黙する。
 奏太は、膝をついた──その身体を支えたのは、にこの両腕だった。

 「……ありがとう」
 それだけを呟いて、彼は目を閉じた。
 眠るように、安らかに。

 その後──共鳴の間に残ったのは、崩壊の前触れを告げる静寂だけだった。
 だがそれは、絶望の静寂ではない。
 未来への“余白”だった。