迷宮の最深部、共鳴の間の前──
そこに立ちはだかるのは、最後の“嘘判定ロック”。
認証装置には、銀色の文字が浮かんでいた。
《あなたがついた最後の嘘を述べ、それが“誰かを守るため”だった場合のみ扉は開く》
静まり返る空間。
だが、誰も言い出せない。互いの嘘を暴き合うようで、足がすくんでいた。
そのとき、絢香が一歩前に出た。
彼女は軽やかに笑い、そしてゆっくりと言った。
「──私、本名、絢香じゃないの」
ざわめく一同。
絢香はあっさりと、さらに続ける。
「本当の名前は“真理亜(まりあ)”。でも、それだと前に居た子と名前が被るから……ずっと偽名でやってきた。誰にもバレないように」
にこが戸惑いを浮かべる。
「それって、守るための嘘なの?」
絢香は少し寂しそうに笑った。
「……うん。被ってる“マリア”って子、あの子はずっと“孤高の観測者”でしょ。無理してでも区別されたかった。だから、私が変わったの」
千紘が唇を噛みしめながら呟く。
「じゃあ、その嘘で──マリアを守った、ってこと?」
絢香は静かに頷いた。
「真似されたくなさそうだったから。“白い嘘”って、たぶんこういうやつ」
その瞬間、認証装置が青く光り、ロックが緩んだ。
全員が目を見開く。
“嘘の本当”が、ようやく報われたのだ。
扉がゆっくりと開き始めたとき、絢香は仲間に向き直った。
「嘘ってさ、悪いことだけじゃないよね。誰かを傷つけないようにするためとか、自分を守るためとか、そういうのもあると思うの」
マリアが珍しく口を開いた。
「……名前、かぶってたこと、私、ぜんぜん気にしてなかった。でも、ありがとう。あなたが違う名前を選んでくれたこと、嬉しかったって今思った」
絢香は肩の力を抜いたように笑った。
「よかった。これでもう、隠す理由もないし。ほんとは“真理亜”って呼ばれても、別に悪くなかったかもって思えるよ」
ライランが小さく呟いた。
「“嘘をつかない”のではなく、“ついた嘘を認めること”こそが、本当の誠実かもしれないな」
扉が完全に開き、そこには透明な螺旋階段が空中へと続いていた。
共鳴の間、島の核心へと至る道が、とうとうその姿を現す。
全員が無言で歩き出す。
そしてその背に、絢香──いや、真理亜の声が響いた。
「ありがとう、みんな。あたし、“真理亜”としてここにいてよかったって、やっと思えたよ」
彼女の白い嘘は、もう代償なんかじゃない。
それは、名前を越えて人とつながる“証”になったのだった。
そこに立ちはだかるのは、最後の“嘘判定ロック”。
認証装置には、銀色の文字が浮かんでいた。
《あなたがついた最後の嘘を述べ、それが“誰かを守るため”だった場合のみ扉は開く》
静まり返る空間。
だが、誰も言い出せない。互いの嘘を暴き合うようで、足がすくんでいた。
そのとき、絢香が一歩前に出た。
彼女は軽やかに笑い、そしてゆっくりと言った。
「──私、本名、絢香じゃないの」
ざわめく一同。
絢香はあっさりと、さらに続ける。
「本当の名前は“真理亜(まりあ)”。でも、それだと前に居た子と名前が被るから……ずっと偽名でやってきた。誰にもバレないように」
にこが戸惑いを浮かべる。
「それって、守るための嘘なの?」
絢香は少し寂しそうに笑った。
「……うん。被ってる“マリア”って子、あの子はずっと“孤高の観測者”でしょ。無理してでも区別されたかった。だから、私が変わったの」
千紘が唇を噛みしめながら呟く。
「じゃあ、その嘘で──マリアを守った、ってこと?」
絢香は静かに頷いた。
「真似されたくなさそうだったから。“白い嘘”って、たぶんこういうやつ」
その瞬間、認証装置が青く光り、ロックが緩んだ。
全員が目を見開く。
“嘘の本当”が、ようやく報われたのだ。
扉がゆっくりと開き始めたとき、絢香は仲間に向き直った。
「嘘ってさ、悪いことだけじゃないよね。誰かを傷つけないようにするためとか、自分を守るためとか、そういうのもあると思うの」
マリアが珍しく口を開いた。
「……名前、かぶってたこと、私、ぜんぜん気にしてなかった。でも、ありがとう。あなたが違う名前を選んでくれたこと、嬉しかったって今思った」
絢香は肩の力を抜いたように笑った。
「よかった。これでもう、隠す理由もないし。ほんとは“真理亜”って呼ばれても、別に悪くなかったかもって思えるよ」
ライランが小さく呟いた。
「“嘘をつかない”のではなく、“ついた嘘を認めること”こそが、本当の誠実かもしれないな」
扉が完全に開き、そこには透明な螺旋階段が空中へと続いていた。
共鳴の間、島の核心へと至る道が、とうとうその姿を現す。
全員が無言で歩き出す。
そしてその背に、絢香──いや、真理亜の声が響いた。
「ありがとう、みんな。あたし、“真理亜”としてここにいてよかったって、やっと思えたよ」
彼女の白い嘘は、もう代償なんかじゃない。
それは、名前を越えて人とつながる“証”になったのだった。



