崩れかけた回廊の先、通路は斜めに傾き、天井は軋んで砂塵を舞わせていた。
全員が先を急ごうとする中、美紗はひとり、最後尾に留まっていた。
「……まだ、耐えられる」
微かに口にしたその言葉は、自分自身への確認だった。
彼女は手すりの支柱に手を添え、きしむ音を確かめるように、ぐっと足を踏みしめた。
「美紗さん、早く!」
マリアが叫ぶ。
その声には、焦りと心配と、怒りにも似た色が混ざっている。
けれど、美紗は首を横に振った。
「ここ、もう限界。私が支えてなきゃ、今通ってるルートが全部崩れる。だから……行って」
即座にライランが戻ろうとするが、彼女は鋭く制した。
「ダメ。……あなたたちは、前へ行って。私は、“ここ”で耐えるのが役目だから」
頑固なまでの言い切りだった。
それは自己犠牲ではなかった。信念から来る行動。
かつて友を失った“譲れなかった”頑なさ。その延長ではなく、進化した意思だった。
「支えるって、そういうことでしょ。誰かが通るための杭になるの。昔はわかんなかったけど……」
背後で、重力が狂ったように天井が崩れ始める。
美紗は鉄製の梁に縄をかけ、引き落ちかけた床板を支え続ける。
「……行けッ! 今なら、まだ!」
誠が、陽斗が、宗一郎が、互いに支え合いながら、仲間を導くように走り出す。
にこが泣きそうな顔で立ち止まるが、健司に背を押されて進む。
崩壊が加速する。
それでも美紗は、杭のように立ち続けていた。
「……ふふ、頑固って、こういうときのためにあるんでしょ」
腕は震えていた。息も荒く、視界も砂に滲んでいる。
だがその目には、迷いも、恐れもなかった。
過去の後悔が、胸を刺す。
(あのとき、譲れなかったのは……怖かったからだった。
でも今は、譲らずに“支える”ことができる)
ひび割れた足場の奥、仲間たちが無事に進路を確保していく。
それが何よりの証明だった。
「ありがとう、美紗!」
振り返って叫んだのは千紘だった。
その笑顔には、感謝と信頼が詰まっていた。
「うん、ちゃんと届いてるよ」
かすれる声でそう返しながら、美紗は最後の一本を固定し、支柱を抜けた。
その直後、支えていた天井が崩れ、通ってきた回廊が轟音とともに塞がった。
彼女は、ほこりまみれの手で頬を拭き、ようやく皆の後を追いはじめた。
遅れて合流したその姿に、陽斗が息を詰め、安堵で笑う。
「戻ってこなかったら、俺、迎えに行くつもりだった」
「……それはそれで、ありがた迷惑ね」
美紗は、いつもの調子で皮肉をこぼしながらも、小さく笑った。
支えることを選んだその意志が、確かに一行を前へ導いたのだった。
全員が先を急ごうとする中、美紗はひとり、最後尾に留まっていた。
「……まだ、耐えられる」
微かに口にしたその言葉は、自分自身への確認だった。
彼女は手すりの支柱に手を添え、きしむ音を確かめるように、ぐっと足を踏みしめた。
「美紗さん、早く!」
マリアが叫ぶ。
その声には、焦りと心配と、怒りにも似た色が混ざっている。
けれど、美紗は首を横に振った。
「ここ、もう限界。私が支えてなきゃ、今通ってるルートが全部崩れる。だから……行って」
即座にライランが戻ろうとするが、彼女は鋭く制した。
「ダメ。……あなたたちは、前へ行って。私は、“ここ”で耐えるのが役目だから」
頑固なまでの言い切りだった。
それは自己犠牲ではなかった。信念から来る行動。
かつて友を失った“譲れなかった”頑なさ。その延長ではなく、進化した意思だった。
「支えるって、そういうことでしょ。誰かが通るための杭になるの。昔はわかんなかったけど……」
背後で、重力が狂ったように天井が崩れ始める。
美紗は鉄製の梁に縄をかけ、引き落ちかけた床板を支え続ける。
「……行けッ! 今なら、まだ!」
誠が、陽斗が、宗一郎が、互いに支え合いながら、仲間を導くように走り出す。
にこが泣きそうな顔で立ち止まるが、健司に背を押されて進む。
崩壊が加速する。
それでも美紗は、杭のように立ち続けていた。
「……ふふ、頑固って、こういうときのためにあるんでしょ」
腕は震えていた。息も荒く、視界も砂に滲んでいる。
だがその目には、迷いも、恐れもなかった。
過去の後悔が、胸を刺す。
(あのとき、譲れなかったのは……怖かったからだった。
でも今は、譲らずに“支える”ことができる)
ひび割れた足場の奥、仲間たちが無事に進路を確保していく。
それが何よりの証明だった。
「ありがとう、美紗!」
振り返って叫んだのは千紘だった。
その笑顔には、感謝と信頼が詰まっていた。
「うん、ちゃんと届いてるよ」
かすれる声でそう返しながら、美紗は最後の一本を固定し、支柱を抜けた。
その直後、支えていた天井が崩れ、通ってきた回廊が轟音とともに塞がった。
彼女は、ほこりまみれの手で頬を拭き、ようやく皆の後を追いはじめた。
遅れて合流したその姿に、陽斗が息を詰め、安堵で笑う。
「戻ってこなかったら、俺、迎えに行くつもりだった」
「……それはそれで、ありがた迷惑ね」
美紗は、いつもの調子で皮肉をこぼしながらも、小さく笑った。
支えることを選んだその意志が、確かに一行を前へ導いたのだった。



