中央ホールに集まった仲間たちは、それぞれに自らの試練を乗り越えていた。
 千紘はその中心で、小さな機器の操作パネルを睨みつけていた。

 「心拍センサー……全員、微妙にズレてるなぁ。あと0.3秒、いや0.2秒同期すれば……!」
 彼女が手にしていたのは、以前、通信室で使っていた簡易バイタルモニタだった。
 本来は体調確認用の機器だが、ここでは“共鳴”の鍵となるものだった。

 ホールの天井に設置された巨大なクリスタル球体が、低く唸るように共振を始めていた。
 それは、全員の“鼓動”を感知し、共通のリズムに到達したとき――“道”が開く仕組みだった。

 「こうなったら……みんなで合わせるしかない!」
 千紘は立ち上がり、ホール中央に走り出る。
 「みんなー! 心臓のリズムを合わせるの! 呼吸を、私に合わせて――!」

 最初は戸惑う仲間たちも、次第に千紘のテンポに合わせて深呼吸を始める。
 彼女は大きく手を振り、まるで指揮者のように、全員の息をひとつにまとめていく。

 「せーの、すって、はいて……もう一回!」
 ホール中に、静かな鼓動が鳴り響く。
 それは心の拍動、後悔と希望を乗せた音の重なり。

 やがて――天井の球体が、澄んだ音を放った。
 それはまるで、誰かがピアノを一音、軽く鳴らしたような透明な音。

 「きた……! 全員、共鳴域に入った!」
 千紘は叫び、目尻に涙をにじませながら笑った。

 音の重なりはやがて旋律となり、天井の球体が虹色の脈動を始めた。
 千紘が見上げたその瞳に、まるで音楽が“目に見える形”で流れていくように映っていた。

 「これが……共鳴の譜面……」
 思わず呟いたその言葉を、球体が受け取ったようにまた一音、優しく響かせた。

 陽斗が、にこの肩にそっと手を添える。
 「君の鼓動、ちゃんと届いてるよ。だから安心して」
 にこは頷き、手を重ね返した。

 奏太もまた、静かに息を整えていた。
 彼の胸の奥で、父の残した研究の残響が、いままさにひとつの和音に溶けていくのを感じる。

 そして――
 全員の心拍が、完全に重なった瞬間。

 球体の中心が、まばゆい光を放ち始めた。
 天井から、音符のような光の粒が舞い降りる。それは、島に蓄積された“歓喜の記憶”。
 失われたはずの音楽が、ここに再現されていく。

 「道が……開いた!」
 健司の声が響いた。
 ホール奥の扉が、共鳴音をキーにして、静かに開いた。

 千紘は笑った。全身で、胸を張って。
 「独りで祝うんじゃ、歓喜じゃない。みんなで感じるから、“嬉しい”が本物になるんだ」

 その言葉に、誰もが応えるように頷いた。
 希望の音色が、次なる間へと導いていく。