まるで心臓のように、微かに脈打つ音がする。
 マリアは、他の誰とも言葉を交わさず、ひとりその音を辿って進んでいた。

 彼女の前に広がるのは、半球状のドーム空間。
 無数の光ケーブルが天井から垂れ下がり、床の円形端子に繋がっている。
 そこに“ネットワーク中枢”の心臓部があった。

 「……まるで、生きてるみたいね」
 マリアは機械の核を見つめながら、小さく笑った。だがその笑みには、どこか諦めのような色が混ざっていた。

 “孤独であることは、わたしの最適解だった”
 それは、彼女が長年にわたり自分に言い聞かせてきた言葉だった。

 人と繋がれば、軋轢が生まれる。思考が乱れる。傷つく。
 だから彼女は一人で行動する。全体のため、無駄なノイズを排してきた。
 だが――この中枢は、まさに“繋がりそのもの”を動力源にしていると、彼女は気づいてしまった。

 中央の台座に触れると、記憶が投影された。
 幼い彼女が学校で孤立し、それでも図書館の中で静かに情報と向き合い続けていた姿。
 誰にも頼らず、頼られることもなく、それを“誇り”と呼び換えていた過去。

 ――「一人でやれるなら、それが一番だよね」
 ――「君ってほんと、群れないし、強い」
 その言葉たちが、冷たい鎧のようにマリアを守ってきた。
 けれど今、接続ケーブルが示すのは、“繋がることで力が宿る”という逆の事実だった。

 彼女は迷った。接続することは、心を開くこと。拒否してきた生き方を、自ら否定すること。
 だが、ここで繋がらなければ、この場は開かれない。

 マリアは、ゆっくりと中央端子の上に立つと、手元の通信機を胸元にあてた。
 今はもう、完全に再接続された機器。そこには、仲間たちの声がまだ保存されていた。

 《マリア、どこにいるの?》《戻ってきて。君はひとりじゃない》
 《あんたが測ってくれた地形図、今でもみんなの命綱だよ》
 端末から再生されたそれらの声に、マリアの頬が震える。

 「……うるさいわね、ほんと」
 吐き捨てるような声とともに、彼女はゆっくりと全端子にケーブルを差し込む。
 その瞬間、背後のケーブルが一斉に輝き出す。

 繋がった。マリアが、ネットワーク中枢に“共鳴”した。
 エネルギーの流れが変わる。島全体を包む微弱なパルスが、仲間たちの居場所へとリンクしていく。

 そして彼女は知った。
 この“玻璃の図書館”そのものが、彼女のような“孤独な記憶”を核に成り立っていたということを。
 島は孤独の集合体――その力を、繋がりで反転させようとしている。

 「わたしは、間違ってたのかもしれない。……でも」
 彼女は微笑んだ。強がりでも、反抗でもなく。
 本物の安堵をまとって。
 「……でも、繋がるって、悪くないかもね」

 背後の回廊が光り、扉が開いた。
 マリアの通信機には、新しいメッセージが点灯していた。
 ――《戻ってこい、仲間》。