回廊の先に現れたのは、瓦礫の山に覆われた崩落地帯だった。天井の一部は既に抜け落ち、陽の差さぬ洞のなかで、視界はきしむような静けさに包まれていた。
奏太が慎重に足を運ぶ。
後に続く陽斗は、目を凝らし、足元ばかりでなく、仲間たちの様子も交互に確認していた。
「この先、ちょっと危ないかも……健司さん、こっちの道、応急の補強頼めます?」
「了解、こっちから回ってみる」
陽斗の声には、いつも誰かを気遣う配慮がにじむ。だがそれは、時に──自分を犠牲にする優しさにもなる。
にこが息を詰めるように言った。
「落ちてきそうな梁が……」
瞬間、天井の石材がパキッと鳴った。
次の瞬間、大きな破片が軌道を外れて落ち──
「危ない!」
陽斗が咄嗟に、にこを抱えるように押し出す。
落ちてきた梁が、彼の肩を直撃した。
「陽斗!!」
千紘の叫びと同時に、一同が駆け寄る。
陽斗は地に膝をついていたが、表情は笑っていた。
「大丈夫……骨は、多分、いってない……ちょっと強めの打撲……だと思う」
美紗が手早く応急処置を施しながら言う。
「こんなの、“大丈夫”って顔じゃない」
陽斗は目を細めて、小さく首を振った。
「でも、にこちゃんが無事で良かった……ほんと、それだけでいいんだ」
その一言に、実咲が目を伏せる。
「どうしてそこまで、他人のために……?」
陽斗は笑う。
「僕は……昔、助けられなかった子がいたから。だから、今度こそって、いつも思ってる」
沈黙が、重たく全員にのしかかる。
痛みに耐える陽斗の顔には、それでも曇りがなかった。
「優しさって、僕にとっては――償い、なんだと思う。でも、それだけじゃなくて……」
言葉を探すように、彼は微笑んだ。
「優しさって、巡ってくるものだとも思ってる。誰かに向けたものは、いつか、誰かから戻ってくる」
奏太が、そっと膝を折り、陽斗の側に座り込んだ。
「だったら、今は俺たちがその順番なんだろうな。陽斗、お前が他人を守る番じゃなくて、俺たちが、お前を守る番だ」
千紘が大きくうなずいた。
「その通り! 私たち、ちゃんと役割分担できるチームだよ」
誠が肩を貸し、健司が荷を軽くし、沙也加が崩落予測図を即座に共有する。
マリアが静かに通信記録を取り、ライランが周囲の防壁を組み立てる。
誰一人、陽斗を置いて行こうとしなかった。
にこが、静かに声を出す。
「……ありがとう、陽斗。助けてくれて。けど、私も――あなたを助ける番に、なりたいんだ」
陽斗の目が、一瞬だけ潤んだ。
けれど次には、強くうなずいた。
「……じゃあ、頼っていい?」
「うん。全部、任せて」
負傷を負いながらも、仲間の真の絆に支えられ、陽斗は再び立ち上がる。
優しさは、代償を伴うものではなく、支え合いの循環の中にある──その確かな実感と共に、一行は再び迷宮の奥へと進んでいった。
奏太が慎重に足を運ぶ。
後に続く陽斗は、目を凝らし、足元ばかりでなく、仲間たちの様子も交互に確認していた。
「この先、ちょっと危ないかも……健司さん、こっちの道、応急の補強頼めます?」
「了解、こっちから回ってみる」
陽斗の声には、いつも誰かを気遣う配慮がにじむ。だがそれは、時に──自分を犠牲にする優しさにもなる。
にこが息を詰めるように言った。
「落ちてきそうな梁が……」
瞬間、天井の石材がパキッと鳴った。
次の瞬間、大きな破片が軌道を外れて落ち──
「危ない!」
陽斗が咄嗟に、にこを抱えるように押し出す。
落ちてきた梁が、彼の肩を直撃した。
「陽斗!!」
千紘の叫びと同時に、一同が駆け寄る。
陽斗は地に膝をついていたが、表情は笑っていた。
「大丈夫……骨は、多分、いってない……ちょっと強めの打撲……だと思う」
美紗が手早く応急処置を施しながら言う。
「こんなの、“大丈夫”って顔じゃない」
陽斗は目を細めて、小さく首を振った。
「でも、にこちゃんが無事で良かった……ほんと、それだけでいいんだ」
その一言に、実咲が目を伏せる。
「どうしてそこまで、他人のために……?」
陽斗は笑う。
「僕は……昔、助けられなかった子がいたから。だから、今度こそって、いつも思ってる」
沈黙が、重たく全員にのしかかる。
痛みに耐える陽斗の顔には、それでも曇りがなかった。
「優しさって、僕にとっては――償い、なんだと思う。でも、それだけじゃなくて……」
言葉を探すように、彼は微笑んだ。
「優しさって、巡ってくるものだとも思ってる。誰かに向けたものは、いつか、誰かから戻ってくる」
奏太が、そっと膝を折り、陽斗の側に座り込んだ。
「だったら、今は俺たちがその順番なんだろうな。陽斗、お前が他人を守る番じゃなくて、俺たちが、お前を守る番だ」
千紘が大きくうなずいた。
「その通り! 私たち、ちゃんと役割分担できるチームだよ」
誠が肩を貸し、健司が荷を軽くし、沙也加が崩落予測図を即座に共有する。
マリアが静かに通信記録を取り、ライランが周囲の防壁を組み立てる。
誰一人、陽斗を置いて行こうとしなかった。
にこが、静かに声を出す。
「……ありがとう、陽斗。助けてくれて。けど、私も――あなたを助ける番に、なりたいんだ」
陽斗の目が、一瞬だけ潤んだ。
けれど次には、強くうなずいた。
「……じゃあ、頼っていい?」
「うん。全部、任せて」
負傷を負いながらも、仲間の真の絆に支えられ、陽斗は再び立ち上がる。
優しさは、代償を伴うものではなく、支え合いの循環の中にある──その確かな実感と共に、一行は再び迷宮の奥へと進んでいった。



