夜も更けた桜洛の城下町。
摂政家の外郭である訓練場――普段は武家の子らが稽古に使うその場所に、異国の男と一本気な女の姿があった。
「……立て、もう一度だ、薫」
低く、凛とした声が響く。
薫は額から汗を滴らせながら、また立ち上がる。
手には木槍。身体には泥と傷。心には――炎。
「へっ、外国のやり方ってのは、ずいぶんと容赦ねぇな」
「戦に情けは不要だ。命がかかれば、一太刀がすべてを決める」
そう答えるのは、幕府の外交使節団と共に来日した剣術指南役――アクセル。
鋼のように引き締まったその立ち姿は、異国の者と侮るにはあまりに真剣だった。
「……でもなぁ、こっちはこっちで生きてんだ。型どおりの稽古じゃ、どうにもならねぇ場面もあるんだよ」
「それは、君の言う“気合い”というものか?」
「違ぇねぇ。気合いと根性と、なにより――叱られて伸びるってやつだよ!」
そう言って、薫は再び構える。
アクセルは苦笑したように、しかしその目を鋭く細めて、相手に向き直る。
「ならば、私の叱責を受け止めてみろ。動きが遅い。腰が浮いている。視線が甘い!」
「はっ! もっと罵ってくれりゃ、もっと燃えらぁ!」
火花が散った。
二人の槍がぶつかり、跳ね、飛沫のように汗が散る。
音ではなく、熱で会話しているような稽古だった。
薫の槍が、アクセルの脇をかすめる。
アクセルがそれを受け流し、薫の膝に重心を崩させる。
そこから、互いに言葉もなく打ち合いが続く――
だが不思議と、そこには敵意はなかった。
やがて、息を切らした薫がその場にどさりと座り込み、笑った。
「ぜえ、はあ……あんた、面白ぇな……外国式ってのも、悪くねぇじゃんか」
アクセルは黙って手を差し出す。
「お前の“気合い”には、学ぶところが多い。文化の違いとは、壁ではなく、踏み台だと知ったよ」
薫はその手を取って立ち上がると、いつもの口調でふてぶてしく言う。
「だったらもっと叱ってみな。私ぁ、叱られてナンボなんでね!」
アクセルは一瞬きょとんとし、それからほんの少しだけ微笑んだ。
「では、次は朝まで続ける覚悟で来い」
「上等だよ! 気合いと根性で叩き返してやらぁ!」
夜の稽古場に、火と風のような二人の笑い声が混ざり合う。
異文化はぶつかりながら、確かに混ざり、次なる決戦の“力”になっていった。
摂政家の外郭である訓練場――普段は武家の子らが稽古に使うその場所に、異国の男と一本気な女の姿があった。
「……立て、もう一度だ、薫」
低く、凛とした声が響く。
薫は額から汗を滴らせながら、また立ち上がる。
手には木槍。身体には泥と傷。心には――炎。
「へっ、外国のやり方ってのは、ずいぶんと容赦ねぇな」
「戦に情けは不要だ。命がかかれば、一太刀がすべてを決める」
そう答えるのは、幕府の外交使節団と共に来日した剣術指南役――アクセル。
鋼のように引き締まったその立ち姿は、異国の者と侮るにはあまりに真剣だった。
「……でもなぁ、こっちはこっちで生きてんだ。型どおりの稽古じゃ、どうにもならねぇ場面もあるんだよ」
「それは、君の言う“気合い”というものか?」
「違ぇねぇ。気合いと根性と、なにより――叱られて伸びるってやつだよ!」
そう言って、薫は再び構える。
アクセルは苦笑したように、しかしその目を鋭く細めて、相手に向き直る。
「ならば、私の叱責を受け止めてみろ。動きが遅い。腰が浮いている。視線が甘い!」
「はっ! もっと罵ってくれりゃ、もっと燃えらぁ!」
火花が散った。
二人の槍がぶつかり、跳ね、飛沫のように汗が散る。
音ではなく、熱で会話しているような稽古だった。
薫の槍が、アクセルの脇をかすめる。
アクセルがそれを受け流し、薫の膝に重心を崩させる。
そこから、互いに言葉もなく打ち合いが続く――
だが不思議と、そこには敵意はなかった。
やがて、息を切らした薫がその場にどさりと座り込み、笑った。
「ぜえ、はあ……あんた、面白ぇな……外国式ってのも、悪くねぇじゃんか」
アクセルは黙って手を差し出す。
「お前の“気合い”には、学ぶところが多い。文化の違いとは、壁ではなく、踏み台だと知ったよ」
薫はその手を取って立ち上がると、いつもの口調でふてぶてしく言う。
「だったらもっと叱ってみな。私ぁ、叱られてナンボなんでね!」
アクセルは一瞬きょとんとし、それからほんの少しだけ微笑んだ。
「では、次は朝まで続ける覚悟で来い」
「上等だよ! 気合いと根性で叩き返してやらぁ!」
夜の稽古場に、火と風のような二人の笑い声が混ざり合う。
異文化はぶつかりながら、確かに混ざり、次なる決戦の“力”になっていった。



