形の良い薄い唇をゆるりを引き上げるとライネルが私の髪に優しく触れた。ただそれだけなのに身体がわずかに跳ねて高鳴る心臓が苦しい。

「さぁ、そろそろ座りなさい。紅茶は好きだろう?」

「はい、大好きです」

私はライネルの隣に腰掛けると、目の前に置かれた花柄のティーカップ に口付けた。

「おいしい……こんなに美味しい紅茶はじめて」

ライネルが私の言葉に切長の双眸を細めた。

「マリーのために特別に取り寄せたものだ。気に入ったならまた手に入れておく」

「いえ、高価なものなのに」

「愛する妻になんでもしてやりたいんだ」

愛する妻、その言葉に気持ちが優しくなって胸があたたかくなる。

「ありがとうございます……」

「構わない。それにしても今日は良い天気だな」

「えぇ、本当に」

「今日はマリーに薔薇をみせてやりたくてな」

私はライネルの言葉に頷く。

原作は何度も読み返している。ライネル王太子殿下がマリーを庭園に誘うエピソードは、この世界で百年に一度しかみられない青く輝く薔薇が咲いたのを見せるためだ。

2人は青い薔薇に囲まれながら、愛を囁き合い熱いキスを交わすという、女子にとって憧れる素敵なシーンのひとつとなっている。