私がそんなあれこれを考えていると庭園の入り口が見えてくる。

(そういえば不思議……庭園なんて来たことないのに身体が覚えてると言うか……)

(マリーとしての記憶や所作も私の中にちゃんとあるってことよね)

庭園の中を少し進めば上品な木製テーブルとお洒落な椅子が見える。

そして後ろを向いて座っている長身の男性の艶やかな黒髪が春風に靡いている。


(あ……あれは……っ)

私がその姿を見つけたと同時にレイザが一礼して庭園を去っていく。

私はおずおずと男性にむかって声を発した。

「お、お待たせ致しました……」

「マリーか」

そう言いながら振り返った彼は間違いなく私が憧れ恋焦がれていたライネルだった。

(うっわぁ……な、なんてイケメン……っ)

高い鼻筋にサファイアのような碧い瞳、鍛え上げられた逞しい体躯。

「ん? マリーどうかしたか?」

「いえ、あのライネル殿下がその」

「殿下? なぜそのように俺を呼ぶんだ? 悪戯か?」

「きゃ……っ」

ライネルに顔を覗き込まれ、その碧い瞳に吸い込まれそうになりながら私は、あまりの美貌に思わず顔を両手で覆った。


「あ、えっと……あの、ライネル、すみません。は、離れて貰えませんか?」

「なぜだ? もっとその美しい瞳で俺を見てくれ」

「む、無理ですわ……貴方がその、美しすぎて」

「ははっ。俺の妻は俺を喜ばせるのが上手だな」