放課後の教室。文化祭の喧騒が嘘のように静まった部屋で、真央と律はふたり並んで中学時代の卒業アルバムを開いていた。
ページをめくるたびに、懐かしい笑顔と場面が蘇り、二人の間に淡い時間が流れる。

「覚えてるか？」
律がページの一枚を指差す。そこには、あの卒業式の日のクラス写真が写っていた。

「うん…みんな若くて、初々しいな」
真央は小さく微笑みながらも、どこか寂しげに目を伏せる。

律は少し間を置いて、言葉を選ぶように口を開いた。

「中学の卒業式、俺、言おうとしてたことがあったんだ」

真央は驚き、律の目をじっと見返した。

「何？」

律は深呼吸をしてから続ける。

「お前が、好きなんだよ。ずっと、前から」

言葉は静かに、しかし真っ直ぐに真央の胸に届いた。

その瞬間、二人の記憶は一気にあの日へと遡った。

【回想シーン】

卒業式の終わり、校庭の隅で、律は真央に近づきながらも言葉が詰まっていた。
風が吹いて、桜の花びらが舞い散る中、律の口元は震えていた。

「真央…あの、その…」

言葉を続けられず、律は俯いたまま立ち尽くしていた。
真央はその様子に気づき、無言で律の手を握った。

「いいんだよ…」

それだけ言って律を安心させようとしたけれど、律の気持ちは伝わらなかった。

【現在】

「言えなかったあの時の言葉、今なら言える」
律の瞳は揺らがず、真央をしっかり見つめている。

「今でも、好きなんだ」

真央は律の言葉に胸が熱くなり、自然と涙がこぼれそうになった。

「律…」

小さな声で名前を呼ぶ。

「ずっと言いたかった。言えなくて、ごめん」

律は静かに微笑み、真央の手を強く握り返した。

「これからは、ちゃんと言うよ。真央だけに」

胸の奥で、初恋のあの温かな光がまた灯った。

ふたりはアルバムを閉じ、そっと寄り添いながら帰り道を歩き出した。
季節は変わっても、二人の気持ちはあの頃から何も変わっていなかった。