新学期が始まってから、一週間が過ぎた。
教室の空気はまだまだ新鮮で、どこかぎこちない。
けれど、律の“真央最優先”ムーブは、日に日に加速していた。

放課後、購買の前。

真央は小さくため息をつきながら列に並んでいた。
律も隣にいる。彼は何気なく周囲を見回し、真央の好物を察知していた。

「お、今日はあのパンだな」

律が笑いながら言う。

真央は慌てて顔を背ける。
「そんなに俺の好み、知ってどうすんの?」

律はにやりとした。

「だって、お前のこと、ちゃんと知りたいんだもん」

列が少しずつ進み、律がさっと動いた。

「あ、それ取る!」

目の前にあった最後の好きなパンを律が手に取った瞬間、他の生徒もそれを狙っていた。

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

周りがざわつく中、律は真央に向かってパンを差し出した。

「はい、真央の分」

真央は受け取る手が震えた。

「そんなの、いらないって…」

律は真剣な目で真央を見つめる。

「お前が喜ぶなら、俺は何でもするよ」

周りの視線が二人に集まるのを感じて、真央は顔を赤くした。

翌日の体育の時間。

クラスの男女がペアを組む中、律は勝手に真央の隣に歩み寄った。

「よし、俺たちペアな」

真央は驚きと戸惑いで顔を上げた。

「え、そんな勝手に…」

律は笑いながら肩をすくめる。

「だって、俺以外どうでもいいし」

その言葉に、クラスメイトたちがざわついた。

真央は恥ずかしさに目を伏せたが、律の顔は満足げだった。

授業中も、律は真央のプリントを代わりに提出したり、休み時間には真央の飲み物を買いに行ったりと、自然な動きで“特別扱い”を続けていた。

「お前、そんなに甘やかされてていいのか?」

友達の涼がからかい半分に言うが、真央はむっとした。

「別に、そんなつもりは…」

律は涼に向かってにやりと笑いながら言った。

「まあ、俺は真央だけだから。だから誰にも渡さない」

その言葉にクラスは一瞬静まり返り、周囲のざわめきが大きくなった。

放課後の坂道を二人で歩く。

真央は少し距離を取りながらも、律の歩幅に合わせて歩いた。

「律…そんなに俺のこと気にしなくてもいいんだよ」

律はふと立ち止まり、真央の方を見た。

「俺は気にしてるんじゃなくて、守りたいだけだ」

真央は胸の奥がきゅんと締めつけられるのを感じた。

「でも、周りが見てるから…」

律は真央の手をぎゅっと握った。

「お前が誰の目を気にしても、俺は変わらない」

真央はふっと笑みを浮かべた。

「律って、本当にわかりやすいんだな」

律は腕を組みながら照れ笑いをした。

「だって、お前は俺の特別だからな」

その言葉は、何よりも真央の心を満たした。

そんな律の“真央最優先”ムーブに、周囲は少しずつざわつき始めていた。
だが、二人の距離は確実に近づいていた。

「俺は、これからもずっとお前だけを見てる」

律がそう言って、真央の手を強く握った。

真央はそれに応えるように、しっかりと握り返した。