放課後のチャイムが鳴り終わった教室は、少し肌寒くて、でもどこか静かなあたたかさが漂っていた。
窓から差し込む夕陽が、机の上をやわらかく照らしている。

真央は、そこで待っていた。律が「先に行くね」と出て行ったふりをして、すぐに戻ってくると分かっていたから。

教室の扉が静かに開く音。
振り返ると、やっぱりそこには律がいた。
不思議そうに首をかしげながら、でも笑っている。

「どうしたの?まだ帰らないの?」

真央は、小さく首を振った。
「…律に、ちゃんと話したかったから」

その声には、もうあの日のような震えはない。
逃げないと決めたあの日から、少しずつ、自分の気持ちに正直になれるようになった。

「私…いつも、律に守られてばっかりだった。気持ちを受け止めるだけで、返すことが怖くて…」

そこまで言って、言葉が詰まりそうになる。
けれど、律は何も言わずにただ待っていた。
自分の想いをちゃんと最後まで言わせてくれる、そんな優しい目をして。

真央は一歩、律に近づく。
そして、そのまま律の胸に、ぎゅっと抱きついた。

「……私も、律が好き」

小さな声だったけど、真っ直ぐで、濁りのない気持ち。
抱きしめる腕に力がこもる。
真央の頬は熱くて、胸の鼓動がドクドクと煩いほど響いていた。

「受け止めるだけじゃなくて、私も、好きって伝えたかった」

律は、驚いたように固まっていたけれど、すぐにふっと息をこぼすように笑った。
その笑顔は、今までで一番うれしそうで、どこかほっとしたようで。

「……ずっと待ってた」
「俺、真央からそう言ってもらえる日を、めっちゃ想像してたんだよ」

律の手がそっと真央の背中を撫でる。
そして、ほんの少し体を引いて、真央の顔を見つめ――そっとキスを落とした。

静かな教室。
遠くで風が窓を揺らす音と、夕焼けの中に溶けていくキスの音。
全てが、柔らかくて、温かかった。

唇が離れたあと、真央は律の胸に額を預けたまま、ぽつりと言った。

「これからは、私もたくさん伝えるね。好きって」

律はそれを聞いて、ぎゅっと真央を抱きしめた。

「うん、何回でも聞かせて」

2人の指が絡まり、手をつなぐ。
その手はもう、離れたりしない。

夕焼けの教室をあとにして、並んで歩く帰り道。
頬を赤らめながら、それでも自然と笑い合う2人。

この先、きっといろんなことがある。
でも、今はただ――

「好き」って言える幸せが、ここにある。

― 完 ―