それでも君が最優先

午後から突然降り出した雨に、真央は急いで帰ろうとしたが間に合わず、びしょ濡れになってしまった。
教室から出た瞬間、空は鉛色の雲に覆われ、冷たい雨が真央の髪と制服を容赦なく打ちつける。

「やばい…風邪ひくかも」
慌てて歩道の軒先で雨宿りをするも、止む気配はない。

その時、背後から聞こえた声。
「真央、大丈夫か?」

振り返ると、律が濡れた傘を差し出して立っていた。

「律…?」
驚きと安堵が入り混じる真央。

「俺の家、近いからそこで着替えていけよ」

そう言って律は無言で真央の肩に傘を差し向ける。
律の家へ向かう途中も、真央は律の肩越しにじっと雨に濡れた自分の姿を意識していた。

律の家の玄関に入ると、律は真央に自分のパーカーを差し出した。
「これ着とけ。でかいけど、暖かいから」

真央は躊躇しながらも、律のぶかぶかのパーカーを羽織る。
袖は手の甲を隠すほど長くて、大きくて。

「…それ、似合いすぎるから脱いで」
律が冗談めかして呟く。

真央はその言葉に顔を真っ赤にしながらも、
「やめてよ…!」と照れ笑いで返す。

律はそんな真央の表情を見て、理性がギリギリで保たれているのを自覚した。

「なあ、真央」
律の声は少しだけ震えていて、真剣そのものだった。

「ずっと、言おうと思ってたんだ」

真央の心臓が強く鼓動を打ち始める。
目の前の律の瞳は、いつもよりもずっと近くて、まっすぐで。

「俺、お前のことが…」

言葉はそこで途切れた。
律は急に顔を背けてしまい、照れ隠しのように笑った。

「…って、なんだよ、告白みたいじゃん。気持ち悪くてすまん」

真央は苦笑いを浮かべながらも、胸の奥に沸き上がる感情を隠せなかった。

「律…」

その声に律は振り返り、また少しだけ近づいてくる。

「俺はずっとお前のこと、守りたいと思ってる」

濡れた髪から一滴の水がぽたりと落ちて、真央の頬を伝う。
その距離に、二人の鼓動は今にも弾けそうで。

雨の音だけが静かに響く密室で、言葉は途切れたまま、でも確かな想いが満ちていく。

甘さと緊張が入り混じった時間。

次の一歩は、まだ二人だけの秘密にしておこうと思いながら。