教室の窓から差し込む午後の柔らかな光が、真央と律の影を静かに伸ばしていた。
昼休み。周囲のざわめきが徐々に遠くなり、二人だけの時間が少しずつ流れていく。

「なあ、真央」
律がふと、静かな声で話しかけた。

真央は教科書を閉じて律の方へ少し体を向ける。

「やっと俺の方、見てくれるようになった?」
律の瞳はいつもより少しだけ優しく、どこか嬉しそうに光っている。

真央は照れたように小さく息を吐き出した。

「うん、もう逃げないって決めたから」

そう言って、初めて誰かの前で自分の気持ちを隠さずに伝えられたことが嬉しくて、心が軽くなるのを感じた。

律は微笑んで、そっと隣に座る真央の手に触れた。

その瞬間、二人の指先がほんの少しだけ触れ合う。
けれど、律も真央も慌てて手を引くことはしなかった。

その触れ合いが、自然な距離の縮まりを示しているようで、二人の胸がゆっくりと高鳴っていく。

「こんな時間、もっと増やそうな」
律の言葉に真央は小さく頷いた。

放課後、屋上に上がった二人。
遠くに見える街並みと青空が、静かに彼らを包み込んでいた。

「逃げずに向き合うって、怖いけど…」
真央は空を見上げながらつぶやいた。

「怖いのは当たり前だ。俺もそうだった」
律が真央の隣に肩を並べて言う。

「でも、逃げるよりも一緒に歩きたいと思ったんだ」

真央はその言葉を胸に刻み、律の手を自分からぎゅっと握り返す。

「ありがとう、律」

律はそんな真央の手を優しく包み込んだ。

風が吹いて、二人の距離がさらに縮まったことを確かめるように。

これからの時間は、もっと素直に、もっと近くで過ごしていく。
逃げずに選んだその気持ちが、二人の未来を優しく照らし始めていた。