「風邪ひく」
頭からタオルを被せられる。俺の頭は怒り狂った変な女に水をかけられて濡れてしまっている。
だが、俺の感情は怒りよりも嬉しさが優っていた。
だって、今、俺は綴先輩の部屋にいるのだから。
「早く拭いて、一星」
ため息混じりでそう言ってもなかなか動きださない俺に痺れを切らして綴先輩は俺の頭をごしごしと拭き始めた。
「もうほとんど乾きましたよ」
「乾いてない」
「そんなこと言ったら制服の方が濡れて気持ち悪いかも」
「分かった」
なんてことないように、俺のシャツのボタンに手をかけた綴先輩。しかし、さすがに動きを止めた。
俺はタオルを頭にかけた状態で乱れた髪の隙間から綴先輩を見上げる。
綴先輩の手が離れようとしたため、俺はその手を掴んだ。
綴先輩が「一星」と名を呼んで、その場に沈黙が生まれる。心臓がバカみたいにうるさくなる。
「さっき、言いかけたことの続きなんすけど」
「なに」
「本当は、」
甘い毒を帯びている言葉だと知っていて、今、このタイミングでぶつける俺はずるいだろう。そんなことは分かっている。けど、俺は、生意気だからやめない。
「本当は自分の思うがままに、俺をめちゃくちゃにしたいとかそういう風に考えたことないんすか」
綴先輩の瞳が大きく開かれる。俺は小さくあいた距離を縮めるように近づいた。頭からかけていたタオルが床に落ちていく。
少し踵をあげて、ゆっくりと自分からキスをした。
離れて、綴先輩を見つめる。試すように綴先輩の袖をクイクイっと引っ張る。
「…そういうこと言って、後悔してもしらないからな、一星」
余裕がなさそうにそう言った綴先輩が、俺の後頭部に手を添えて強く引き寄せる。
「ん」
深く口づけられたあと、流れるようにベッドに倒れこんだ。綴先輩は「後悔」なんて言ったけれど、俺は絶対にそんなこと思わない。
だって、触れる手が、唇が、こんなに優しい。
優しい中にも荒い甘さがあって、このままドロドロと溶けていきそうだった。
気持ちがよくて、でも、なんとかこの甘さに抗いたくなって俺は綴先輩の首に手をまわす。
そして、にひりと笑ってみせた。
「俺、まだ全然余裕です、綴先輩」
綴先輩は、俺にだけみせる甘い顔で、小さく笑った。
「…生意気」
うん、生意気でごめんね、先輩。
そのポーカーフェイス、これから先も崩すの俺だから覚悟しておいてください。



