「なんで追ってきたんですか」
「いや、普通に帰り道こっちだから」
変な期待をもたせないように綴先輩よりも早く俺がそう答える。
「そうですか」と情けない笑みを浮かべたその子はまた歩きはじめる。
綴先輩が、やっとその子に向けて口を開いた。
「…こうなったの、俺のせいだったらごめん」
その子がばっとこちらを振り向いた。そしてツカツカと歩みよってくる。
「何言ってるんですか!勝手に舞い上がって勝手に嘘ついたのは私なんですよ、なんで綴さんが謝るんですか!」
それはそうだ。
「いい加減、優しすぎるのどうにかした方がいいです。自分の感情抑え込んで、いつだって冷静なことが正解じゃないんですから」
綴先輩は、瞳を小さく揺らしたあと俺の方を見た。
ーーー自分の感情を抑え込んで
綴先輩は、人を思いやって自分の感情を抑え込むことに慣れてしまっているんだろうか。
「まあ、嘘ついた私が偉そうに言えることじゃないかもですけど」
と、俺の方を見たその子はへらりと笑ってみせた。
「なんだか、さっき2人が水かけあって喧嘩し始めたのをみたら、なんで私こんなにうじうじしてたんだろうって思って」
「それは、どーも」
不本意だけどな。ほめてないな、こいつ。
「あれくらい、感情をぶつけ合えたら悲劇も喜劇になるかもって思いました」
彼女は、吹っ切れたような顔でそう言った。
あんなぶっ壊れた喧嘩のやりとりみてたら、そう思うのだろうか。何もできなかったと卑下していたが、存外そうでもなかったのかもしれない。
少し背筋を伸ばしたその子は俺たちに再び背中を向けて歩き出した。
ちらりと綴先輩をみる。ポーカーフェイスな男が穏やかな顔で笑っていた。



