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必死に抑え込むように、バレないように、溢れ出ないように、と、それが正解だということは分かっているが、自身のエゴのぶつけ先が俺には分からない。
ファミレスの端。自分の正面に座っている綴先輩。
いつしかみた光景と全く同じ姿ではあるものの、俺たちの関係は前とは変わっている。
俺の方は見ないまま、ただただ問題集と向き合いシャーペンを動かしている綴先輩を俺は頬杖をついてじっと見つめた。
ほとんどなくなりかけたメロンソーダを勢いよくストローで吸い込めば『ずここここ』という盛大な音を立てる。綴先輩の瞳がこちらに向く。わーい、こっち向いたあ、なんて、嬉しがる時間もなく綴先輩の瞳から俺はフェードアウト。ちぇっ。
そして、綴先輩は下を向きながら「うるさ」と小さく声を漏らすもののその口角は少し上がっている。
分かっている、俺は、大事にされていると思う。
「綴先輩」
「ん?」
「俺って、聞き分けのいい犬だと思いませんか」
綴先輩が握るシャーペンの動きが止まった。そして不思議そうな表情を浮かべて顔を上げる。
俺は変わらず頬杖をついたままにこりと笑って見せた。
「なに、急に、犬?」
「先輩から『待て』って言われたらちゃんと待てるし、先輩が勉強で忙しいだろうから俺からはあんまり連絡しないし、会ってもこうやって大人しくしてる」
裏を返せばもっとイチャイチャしたいと、そういうことではあるがこの先輩には伝わっていないだろう。
綴先輩はシャーペンをノートの上に置いて俺を見つめた。
「会ってもあまり相手できてないから、拗ねてんのか」
「は?」
「違うならいいけど」
何がいいんだ。じゃあ俺がわがまま言ったら言うこと聞いてくれるのかよ。
と、拗ねている感満載で俺は唇を尖らせる。今まで散々生意気言ってきたのに肝心なことは素直に伝えられない。
もっとそばにいたいし、もっと触れたいし、もっと、
「受験終わったら先輩すぐ卒業しちゃうし、一緒にいる時間、今よりもっと減るのは普通に寂しいっすよ」
少し驚いたように瞳を開いて、微々たるものであるがその口角が小さくあがった。
「そう」
だが、裏腹にその口から吐き出された言葉はそっけないものである。「俺も」とか言ったらどうなんだよ。
小さくなって丸みを帯びたコップの中の氷をストローの端でつつく。
俺たちの感情の差って、ないようである気がする。
「綴先輩って本当は」
躊躇うように口ごもると、綴先輩は「ん?」と首を傾げる。
「本当は、」
「あんたふざけてんの?」
俺の小さな声は近くのテーブルから聞こえてきた女の声により遮られた。俺も綴先輩も肩をあげて声がした方に視線を向ける。
1人の女子高生が怒りと蔑みを帯びた表情で立ち上がっている。きつい言葉の先には、か弱そうな丸っこい背中の女子高生が座っている。
か弱そうな背中の子は俺たちの方からは表情までは見えないが、明らかに正面の女を怒らせてしまっているのは彼女だ。
そして、彼女2人の周りにはもう2人、野次馬のような雰囲気を帯びた女子がが弱そうな子を見つめていた。
「喧嘩っすかね」
「…どうだろう」
綴先輩も気になる様子で彼女たちに目を向けている。あんまり見るな、イケメンが介入するともっと拗れそう。これ以上綴先輩にモテてほしくないし。
「綴先輩、あんまり見ないでください」
「なんで」
「新たないざこざがうまれそう」
「どういう思考だよ」



