「なんか、中々の修羅場でしたね」
オレンジ色に染まる廊下を綴先輩とゆっくりと歩いた。
「修羅場にしたの一星だけど」
「だって我慢できなかったから」
やっぱり怒っているだろうか。
そう思って横を向けば、綴先輩は幾分かすっきりしたような顔をしているように思えた。
そしてその口角が少しだけあがった。
「俺のこと、『秋斗』って呼んでたな」
「え、いつ」
「父親に生意気言ってる時」
「ああ、あれは、綴ってどっちも綴だし…」
妙に照れくさくなって地面に顔を向ければ、綴先輩が俺の手を絡めとった。
「綴先輩、誰が見てるか」
「名前で呼んだら離してやる」
「うわっ、ずるい」
「いつもの仕返しだよ」
ゆるく繋がれた手が揺れる。本当は離したくないから「綴先輩」と呼ぼう。
「一星」
「なんですか?」
「ありがとう」
オレンジ色の暖かみと甘さを含んだその言葉。俺はにやけてしまいそうになる唇をきゅっと結んだ。
「ほんと、ありがたく思ってくださいね、こんなに先輩のこと大好きすぎるやついないですから」
「ははっ、なんだよそれ、生意気」
うん、そう、生意気でごめん、綴先輩。
「俺のそういうところが好きですよね?」
綴先輩は、「ああ」と小さな返事をして、また照れくさそうに笑っていた。



