父親の手を俺の胸ぐらから離させて、そう言った綴先輩。
そして静かに俺を自分の背中にまわして、父親に向き直った。
綴先輩、きっと怒っているだろうなと俺勝手なことしちゃったし、とその背中を見つめる。
綴先輩の小さく息を吸う音がきこえた。
「……ぽんこつパパ」
「誰がぽんこつパパだ」
奥で響子ちゃんが吹き出して、「しまった」という顔をして口を手で抑えた。
「俺は、父さんへの反抗心で教師になりたいんじゃない」
まっすぐな声だった。俺の腕を掴んでいる綴先輩の手が小さく震えていた。
俺はゆっくりとその手を覆うように重ねた。
いけ、綴先輩。
「俺は、自分の意思でそうなりたいって思った。理解しろとは言わない、けど1番理解してほしい人に理解されないのはきつい」
「秋斗…」
「俺は父さんを尊敬してる。医者になりたくなくて違う道を選んだんじゃない、父さんが指し示す道より好きな道を見つけた、それだけ」
「だから」と綴先輩が緊張したような声色で言葉を続けた。たぶん、こうやって面と向かって父親と本音で話すのは初めてだったのだろう、そりゃあだれだって緊張する。俺、ここにいていいのだろうか。でも、手、離れないし。
「いつか、俺のこと理解してほしい」
息子としての素直な気持ちだった。泣きそうになった。しかし奥の方で響子ちゃんがめっちゃ泣いていたので涙がすぐにひっこむ。自分以上に泣いている人をみると妙に冷静になる心理が働いた。
「おっ、お父様、綴くんもこう言っております、ので、また、改めて面談を」
「なんで君が泣いているんだ」
「ずみまぜん、感動して」
濃いめのメイクがボロボロになっている響子ちゃんをみて若干引き気味の綴先輩の父親は「わ、分かった、また面談の日程を組んでください」と言い放つ。
そして、綴先輩に向き直ると少し瞳を泳がせて、迷いと葛藤を帯びたその力無い手が綴先輩の肩にのった。
「…ぽんこつは脱却できるよう努力する。また、話そう秋斗」
そう言ってその場を去っていく父親。
綴先輩の緊張していた肩が少し緩んだ。
父親がいなくなった空間で、響子ちゃんの咽び泣く声だけがしばらく響いたあと、先に口をひらいたのは俺だった。
「すみません、勝手なことして」
「…いや、大丈夫。それより、三中先生そろそろ泣き止んでもらえませんか」
「ごめええん、だって、感動したからあ!もう今日はいいから帰りなさい、2人とも!」
崩れた顔を見られたくないのか片手で顔を隠しながらもう反対の手であしらうように手を振られる。
俺は綴先輩と顔を見合わせた。
「鞄とってくる」
「あ、はい」
一度教室の中に戻った綴先輩が鞄をもって出てきて若干引き気味に「さようなら、三中先生」と挨拶をすれば強めの「さようなら!」が返ってきていた。そんな様子に笑いをこらえながら俺は歩き始める。



