生意気でごめん、先輩



一度準備をしに台所の方に向かった兄貴の背中を見ながら俺は隣の綴先輩に顔を寄せた。

「…兄貴ってどこまで知ってるんすかね」

そう言うと綴先輩も少し難しげな顔をして、首を横に振った。

「分からない、ただ…」

「ただ?」

「…いや、なんでもない」

なんでもないってなんだよ、気になるんだけど。
問い詰めようにも、兄貴が皿に置いたケーキを3人分待ってこちらに戻ってきたためすっと綴先輩から離れる。

「ファミレスでバイトしてっから3つの皿を一回で待てる俺すごくね、かっこよくね」

そう言いながら3人分のケーキをテーブルに置く。
「はいはい」とあしらいながら俺は見た目だけでは何のケーキか分からないそれを見つめた。

「なんだよこれ」

「レモンパイ」

兄貴はそう言ってにひっと笑って正面の椅子に座った。そして早速フォークで大きめの一口すくって口の中に頬張っていた。

パイ生地の上には二層の色が重なっており、下は黄色、その上に白色のメレンゲ。
表面は波打つ白にほんのりと焼き目がついている。

兄貴にしてはいいチョイスだと思った。
口の中に入れると甘酸っぱい味が広がった。
そんな時だった、兄貴の口から爆弾が投下される。

「で、お前ら付き合ってんの」

「ゴホッ!」

口の中に入った美味しさがリバースしそうになって口をおさえる。
なんとか飲み込んでしばらく咳き込んだ。

隣をみると焦った様子もなくレモンパイをの一口目を飲み込んでゆっくりと口を開いた綴先輩。

「レモンパイ、意外と美味しい」

ーーー話の逸らし方下手くそか。

「話の逸らし方下手くそか」

俺の心の声と全く同じ言葉が兄貴の口から吐き出された。

「別にいいよお前らがどうなろうと、別にいいけど、もうちょっと感謝しろってことを言いたいわけ、俺は」

ため息混じりに兄貴がそう言う。
俺は綴先輩と顔を見合わせた。やっぱり、こいつ気づいていたのか、と。え、だとしたらどのタイミングだろうか。綴先輩言った?と目で問えば小さく首を横に振られる。

それに、感謝って。

「そもそもお前らを引き合わせたの俺だろ?綴が俺に勉強教えにここに来なかったらお前らが仲良くなることもなかったわけで」

「まあ」

「…そうだけど」

「文化祭での働きなんてMVP並みのアシストだったし」

それを自分で言ってんだもんな、こいつ。しかも超得意げな顔している。なんでこんなに表情と感情が分かりやすいのだろうか、人のこと言えないけどやはり能天気バカだからだろうか。
だけど、その能天気の隙間に潜む察しのよさは少しこわい。

「なあ兄貴、綴先輩とのことまだ人には…」

「ああはいはい、言わない言わない。そもそもお前らがどうなろうが俺にしてみればどうでもいいけど、どうでもいいけどさ!感謝を!感謝をしてくださいと言っています!兄さんは!」

勢いよく立ち上がってフォークの先を俺たちに交互に向けてそう言った兄貴。再び綴先輩と顔を見合わせる。
そして小さく頷いた。兄貴の方を見上げてそして頭を下げる。

「…ありがとう生田」

「あざっす兄貴」

「うむ、苦しゅうない」

立ち上がっていた腰をすとんと落としてまたレモンパイに食らいつく兄貴。
なんだか面白くなってきて笑っていれば、綴先輩も肩を小さく震わせて笑っていた。

その日食べたレモンパイはなんだか甘くて幸せな味だった。