額がじんじんと痛い。
「問題まちがえたら頭突きし合うって、どんだけアグレッシブに勉強してんの、お前ら」
「うるせえな、なんかテレビでやってたのみたんだよ勉強にも刺激が大事なんだってよ、兄貴もやれば」
「マジ?綴」
「うん、まあ」
適当な返事をしながら氷が溶けて薄くなったお茶を一口飲んだ綴先輩。さっきまでの余裕なさげな顔からいつもの無表情になっていた。すげえな、この人。
俺、大丈夫かな。と自分の頬に手を当てる。熱いのは確かだけど今はそれ以上に額が痛い。
俺の部屋の扉が開く直前、思いっきし綴先輩の額に自分の額をぶつけた。
案の定、お互い痛さで床に転がった瞬間に兄貴が入ってきた。
よって、甘い時間は痛さで儚く終わったわけで。
部屋を出て、兄貴と合わせて3人の空間となった。
ダイニングテーブルを囲んで、綴先輩の横に腰を下ろす。
「いやあ、抽選当たると思わなかったわ、ウイッチ2」
「…ウイッチってなに」
「え、綴知らねえの?最新版のゲーム機だよ、倍率すげえんだから」
そう言って嬉しそうに笑っている兄貴。正直この能天気クソ兄貴が突入して来なかったら俺、あのまま、綴先輩と…。
「なんだ一星、顔赤いけど熱でもあんの?」
「なっ、ねえし!てかそんなことで部屋にいきなり入ってくんなよ」
「はあ?お前が今回は兄貴の運にかけるっつうから、やってやったんだろ!貸さねえぞウイッチ!」
「それは貸せや!クソ兄貴!」
「もお、うっざい、まじでこいつ生意気でうざいだろ、綴」
「そういうところがかわいい」
ピキンっとその場が静かになった。
綴先輩は、自分が爆弾発言したのに気づいていないのかお茶をまた一口飲む。
そして、やっと違和感に気づいたのか伏せていた瞳を上げた。そして、兄貴を見て、俺を見る。
「…俺、今なんか言った?」
無意識かよ。俺はテーブルの下で軽く綴先輩の足を蹴った。
「なあ、お前らさ」
兄貴が眉を上げて、両肘をついて少し前のめりになる。心臓が緊張で早くなっていくのが分かる。
誤魔化すしかないよな、いや、でも『かわいい』というのは後輩として、という意味でも捉えられるし、変に墓穴を掘らなければ大丈夫だろう。
言い訳を並べるより、こういうやつには考えていることを違う方向にシフトチェンジさせるのが1番いい。
と、続きの言葉を紡ごうとした兄貴を遮るように俺はテーブルの上に置いてあるものを指差した。
「これ!何買ってきたんだよ」
「あ?、ああ、これね。ウイッチ当たったの嬉しすぎてケーキ買ってきた。母さんの分と合わせて3つだったけど、綴いるし3人で食おうぜ」
「ワーイヤッター」
パチパチと両手を叩く。綴先輩をみると、なんとも言えない顔で俺の方をみていた。なんだよ、元はといえば綴先輩が俺に甘々なのが悪いんだ。
「俺はいいよ、家族で食べて。そろそろ帰る」
と、腰を上げかけた綴先輩。
「まっ」
「いいから食べてけよ、綴」
「…」
「な?」
俺の引き止める言葉を兄貴が遮るように綴先輩に圧をかける。
綴先輩は静かに椅子に腰をおろした。そして一瞬の変な空気を兄貴は「さっ、食べようぜ」と軽みのある口調で払拭した。



